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夜間演習-1

 7月12日 1734時 西サハラ アウセルー


 そろそろ次の攻撃に移らねばならない。ジョン・ムゲンベは、砂漠の中、ジープを走らせながら思った。ドリンクホルダーには、水の入ったペットボトルが置かれ、助手席にはAK-S74Uが立てかけられている。なんとしても、ヨーロッパを破滅に追いやらねばならない。生まれ故郷のナイジェリアは腐り切り、もう国として存在している意義を失った。今の政府は、金のために西側の資本をどんどん投下させ、アフリカの魂を安売りしている。いや、ナイジェリアだけではない。アフリカ諸国の多くが、そんなことを続けている。ムゲンベにとっては、ヨーロッパ諸国もアメリカも、日本も中国も、アフリカの売国奴に金を掴ませ、見返りに資源を収奪している泥棒にしか見えなかった。

 まずは、攻撃目標を考えねばならない。それも、最も効果的で、最も多くの人間を殺傷できる方法で。しかし、それと同時に警戒も必要だ。春先からこの攻撃を続けていたが、間違いなく奴らの警戒レベルは上がっている。


 暫く車を走らせ、ダッシュボードに置かれたカーナビと、助手席に置いた地図とコンパスとを見比べて、自分の現在地を確認した。皮肉なものだ、とムゲンベは思った。自分が最大の宿敵としている西側の技術を使って、こうやって殆ど目印も道も無い砂漠を移動している。ムゲンベは、これらの助けが無ければ、自分は数日と生きてここを移動し続けることはできないだろうということを知っていた。


 同日 同時刻 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ハワード・トリプトンは、珍しくこの時間に出社した。他の特殊現場要員たちも同じだ。これから、ドイツ陸軍の演習場で、夜間戦闘訓練を行こなう予定となっている。

「こんばんは。IDをお願いします」

 トリプトンはいつものように今月の新しいIDカードを差し出した。ここでは、毎月、新たなIDカードが発行され、それと同時に古いものは回収されている。警備兵は、機械でカードに記載された2つのQRコードを読み取った。近くに置かれたモニターにトリプトンの顔写真と名前、今月のIDナンバーが表示される。

「ありがとうございます。では、どうぞ」

 トリプトンは警備兵に手を振り、車をいつものように駐車場へ向かわせた。


 トリプトンが受付でどこへ行けばよいかを尋ねると、まずは装備保管庫へ行くように言われた。どうやら、特殊現場要員たちは、全員、そこに集まることになっているらしい。

「よお、ハワード」

 声をかけてきたのは、トム・バーキンだった。

「やあ、トム。全く、この時間からの演習は堪えるな」

「ああ。だが、前後2日間が休みになるのは有り難い。まあ、そうでもないとやってられないがな」

「ところで、演習のシナリオは聞いているか?」

「いや、全く。と、言うより、いつものことだろ?演習シナリオなんて、キャプランが直前に決めているという噂だ」

「やれやれ」


 7月12日 1802時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


「では、諸君。状況を伝える」

 ブリーフィング・ルームに集まった特殊現場要員たちの顔を見回して、クリス・キャプランが今夜の演習内容の説明を始めた。

「6名のテロリストが警察に逮捕されたが、護送車両が事故に遭い、そのせいでテロリストどもがドサクサ紛れで看守たちを襲撃、武器を奪って逃走した。地元警察が追跡を開始して、検問も設置している。政府に応援を要請し、GSG-9が派遣されることとなったが、出動中に移動車両が交通事故を起こし、到着が遅れる見込みだ。つまり、俺たちがどうにかするしか無い、ということだ」

 キャプランが再び訓練生たちの顔を見回した。

「我々の任務は、奴らの捕獲、または排除だ。手段と結果は問わない。以上。行って来い」


 特殊現場要員たちは、アサルトスーツと防弾チョッキ、ヘルメット、顔面と喉を守る演習用防具を身に着けた。武器はサプレッサーを取り付けたUMP-9とP226だ。弾倉には、シムニッションとも呼ばれている、9mmの訓練用ペイント弾が装填されている。この弾丸は柔らかいプラスチック製で、中に黄色い蛍光ペンキが入っている。人体や物などに当たるとこの弾丸は割れ、ペンキが飛び散る仕組みだ。被弾すると、多少は痛く、ミミズ腫れや青あざができる場合はあるが、人を殺傷する威力は無い。


 トリプトンたちは装備を身に着け、ヘリポートへ歩いていった。そこでは、MH-60Lがローターを回し、タンクローリーから燃料補給を受けている。ここからは、ヘリに乗り、途中で空中給油を受けながらザクセン=アンハルト州レッツリンゲンの陸軍戦闘訓練センターを目指す。ユーロセキュリティ・インターナショナル社とドイツ連邦軍との"特殊な関係"から、事前申請さえすれば、彼らはドイツ陸軍の演習場を様々なシナリオで活用することができた。  

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