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DQNネームな彼女  作者: 小野寺広目天
第二章 志信、小学校五年生
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第二章 第二話

 結局、ショッピングカートで駐車場まで行っていいとわかったのはその直後だった。エレベーターに乗って駐車場に降りるとそこにもカート置き場がある。

 ショコラママとの一件はあれで解決したけれど、たぶんもう倫江はここに連れてきてくれないだろう。ここに来たらまたショコラママに会ってしまうかもしれないのだ。

 でも、志信はあとでこっそり行こうと思っていた。聖心愛に一人で会うぶんには問題無いだろう。

 そんなことを思いながら、マンションの駐車場に入っていく車から、外を眺めていた。

「ひっ……」

 途端、運転席の倫江が小さな悲鳴をあげた。

 志信も我が目を疑った。

 なぜなら、来客用駐車場に例の白いミニバンが停められていて、その前でショコラママと聖心愛が待ち構えていたからだ。


「邪魔するぜー。おー、相変わらずきたねー部屋」

「邪魔するなら帰れよ」

 口ではそう言ったが、聖心愛がまたこうして自分の家に来たことを、志信は内心嬉しく思っていた。ズボンを脱いでシャツに手をかけ――。

「オメー!なにやってんだバカ!」

「男の部屋に女が上がり込んできたんだからやることは一つだろ?」

「一つじゃねーよ!ウノとかあるだろ?」

「二人だけでリバースカードとか出しても意味ないよね」

「ねーよな、たしかに」

「男と女でリバースって言うとまた違う意味なんだけど」

「知らねーよ!ズボンはけよバカ!」

 ショコラママは『せっかくあそこで会ったのも何かの縁ですからぁ。お茶でもしましょうよぅ』と言って上がり込み、志信と聖心愛はこども同士でと志信の部屋に追いやった。

「にしても。さっきのはケッサクだったなあ」

「そうだね。まさかあんな所で聖心愛が全裸になるなんてなあ」

「ならねえよ!そうじゃなくて、『お金ないの?』だって……くくくっ」

「僕も必死だったんだよ。……なんなの、あれ?『もらってあげる』なんて……お断りだよそんなの。買い取ってくれるならまだしも」

「まあまあ、母ちゃんもバカだからなあ」

 聖心愛はいうと、志信のベッドの下をまさぐりだした。

「なにやってるの?コンドームならそこじゃないよ」

「違えよ!ふつーベッドの下にエロまんが隠してたりするだろ?男は」

「ああ、エロまんがなら全部本棚に普通に並べてあるよ」

「勇者だなオイ」

「そうは言っても、小学生として年齢制限のあるものは買わないのがポリシーだけどね」

「オメー、意外と真面目なのな」

「ふたりエッチはバイブルだと思う」

「年齢制限ないのが驚きだよ!……お?なんだこりゃ。スケッチブックがあったじゃねえか」

「あ、それは……。まあいいか……」

 聖心愛はその言葉を待たずに、ベッドの下から引っ張りだしたスケッチブックをパラパラとめくる。そこには大小様々な絵が描かれていた。

「オメー……絵、うまくなったな」

「まだまだ。これは全部真似して見ながら描いてるだけだからさ」

「いいんじゃね?そのうちオメーの力になるだろーしよ。それに、オメーが今日、文房具屋で買ってたのもそれ、まんがの勉強だろ?」

「うん。やっぱり、ちゃんと勉強しないとね」

「感心、感心。うちの母ちゃんは勉強もろくにしないで遊んでばかりいたからあんなになっちまったんだ。ああはなるなよ」

「それだよ。僕の話じゃなくて……ショコラママ、なんであんなになっちゃったの?なんか変なもんでも食べたの?」

「ん……まあ、その……な」

「おっきいソーセージとか」

「いや、そんなもん食ったわけじゃねーだろーけど」

「あ、いまのわかんなかったか」

「……わかりたくねーよ」

 聖心愛は言ってから、ため息をひとつつく。するとぼそぼそと、今の境遇を話し始めた。

「あのショッピングセンターができてからさ……始めたんだよ。しかもほぼ毎日」

「毎日?」

「新しい店だろ?だからオメーらみたいに、テンション上って買いすぎるヤツがいるんだよ。そういうのに片っ端から、ああやって声かけてるんだ。買いすぎたならもらってあげますよぅって」

「そんなの……上手くいくの?」

「いくわけねーだろバカ」

 バカ呼ばわりされてしまった。そのバカをやってるのが自分の母親だってことに、聖心愛は気づいているんだろうか。

「たいていは揉めてる間に店員が入って来て、終わり。バカげてんよなあ」

 どいうやら、方向性は変わってもショコラママの非常識は、相変わらずのようだ。

 父方祖父母の監視下にあっても、『買い物に出かける』と言って聖心愛と出かけることくらいは許されてるのだろう。

「オメーはどうなのよ。あたしがいなくなって寂しい思いしてたんじゃねーの?」

「うん、起きた時に横に聖心愛の寝顔がないって、こんなに寂しかったんだなって」

「元々ねーよそんなの!」

「ああ、そうか。いつも聖心愛が先に起きてごはんつくってくれてたんだっけ」

「してねーっつの!一緒に寝たことなんかねーよ!」

 ああ、この感じだ。

 半年前までうっとうしくてたまらなかった聖心愛が、今は懐かしい。

 そばにいるだけでも、なんだか安心するのだ。

 ――これって、やっぱホレちゃったってことだったりするのかなあ……。

 志信は自問した。いいや、そんなわけない。こんなワガママ姫にホレるわけがない。

「聖心愛ー。帰るぞー」

 そんな時にショコラママが呼びかけてきた。

「え?もうかよ」

 聖心愛が悪態をつくが、別に逆らうつもりはないらしい。とっとと部屋を出た。

 しかし、確かに早い。ショコラママのことだから夕飯くらいたかって行くと思ったのに。

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