--- ハジマリ ---
俗っぽい言葉を使えば『一目惚れ』と言うんだろう。
初めて見たときから虜だった。
今思えば、その感情は自分のうちに流れる悪魔の血があのくそガキの中に眠る強大な悪魔の影に強烈に惹かれただけかもしれない。
でもそれは所詮ただのきっかけでしかなかった。
あの少女の心を深く知るにつれ、どんどん引き込まれていった。
自身のことより周囲の人間を心配する優しい心。凄まじい過去と類稀なる才能を持ちながら、なお安寧とした生活よりも自身を鍛える事を選ぶ強靭な精神力。
それより何より――太陽のように周囲のものを照らす光と癒しの温かさ。
気づいた時には何を捨てても守りたいと思うようになっていた。
しかしながらあの少女の隣にはいつも育て親のねえさんがいる。少女が全身全霊を賭けて求める「一つだけ」に選んだ相手だ。勝てるわけがなかった。
だから俺が勝手に傍にいるだけでいい、と思っていた。
ところがあの少女は時折俺にだけその弱さや迷いをさらけ出す。そして俺は舞踏の夜にとうとう傍にいることを許された。
少しくらい自惚れてもいいのだろうか――その瞬間に何もかもが豹変した。
愛されたいと願う心が芽生えた。
あの少女以外要らないと心が叫んでいた。
ある夜に少女は「傍にいていい?」と聞いた。
それは父親に送るものなのか。それとも恋人に贈る言葉なのか。
真意は知れないが、少しは期待してもいいんだろうか?
あの時は邪魔されて言えなかった答えを口にしたら。
いったいあの少女はどうするんだろう……?




