--- ハジマリ ---
ほとんど寝ずにねえさんの帰りを待っていたガキは絶望的な表情で朝日の中のジュデッカ城を見上げた。
本当に、嫌な予感がする。
「すぐにジュデッカ城へ行くぞ。嫌な予感がする」
そっと隣で呟くと、ガキは真剣な顔で頷いた。
馬を準備していると、隣ではガキが死にそうな顔で震えていた。
そうだ、このガキの世界はすべてねえさんと共にあるんだ。そのねえさんに何かあったかもしれないと不安になるのは当然だ。
なぜならそれは世界の崩壊に等しいのだから。
できる限り自然に肩を抱いてやると、ガキは抵抗せずに身を委ねた。
馬でジュデッカ城へ向かう間もずっとしがみついて離れなかった。帰る家を失くした捨て犬のような様子でふるふると震える少女はとても小さくて弱い者に見えた。
守ってやらなくては。
そんな気持ちが大きく膨らんでいた。
泣きたいなら傍にいてやる。不安に震えるなら抱きしめてやる。もし何物にも変え難い願いがあるのなら……それを叶えてやる。
いったい何が起きたのかは全く分からなかった。ただ、この少女にとって幸せな未来が続いているとは言いがたい状況だった。
しかし少女のことに夢中で、それが自分に対しても言えることだと気づいてはいなかった。
そして大きな歯車が何もかもを飲み込もうとしていることにも――
ただ正体の見えない何かに逆らうように、目の前のジュデッカ城を睨みつけた。




