--- ハジマリ ---
ディアブル大陸の西岸を支配するグリモワール王国。
穏やかな気候と豊かな大地を有するこの王国はおよそ500年前に初代国王ユダ=ダビデ=グリモワールが建国して以来おのおのの時代の賢王に守られて安定を保ってきた。
それを支えたのは、国に仕える天文学者と呼ばれる者たちだった。
彼らはその名の通り天に浮かぶ星や月、惑星の動きから未来を読みそれを国政に反映させた。その優れた占星術で大災害も隣国の反乱も事前に察知し、グリモワール王家に繁栄の時代をもたらした。
しかし彼らが駆使したのは占星術のみではなかった。
初代グリモワール国王ユダ=ダビデ=グリモワールは稀代の天文学者ゲーティア=グリフィスと共に、72の悪魔を魔界から召還したのだ。
そして、悪魔それぞれと契約した証に全部で72のコインを作り、72人の天文学者にそれぞれ与えた。
コインは悪魔の持つ力を具現化する。王家に仕える天文学者たちはその悪魔を呼び寄せて、その能力を使役してきたのだ。
天候を操る能力、過去や未来を知る能力、戦いの力、人の心を操る能力――72の悪魔の力は恐ろしく強大で抗いがたいものであった。
その絶対的な力への畏怖もあって国内も隣国でもほとんどグリモワール王国への反抗を企てるものはいなかった。いや、企ては秘密裏に処理されたというのが正解かもしれないが。
しかし、何百年もの時は流れ、王家が所有するコインの数はいつしか減っていた。
72人いた天文学者も今ではわずかに5名、所有するコインは17にまで減ってしまった。
太古の天文学者と同じ名前を授けられた現国王ゲーティア=ゼデキヤ=グリモワールは5名の天文学者に、失われた55個のコイン――ロストコインを集めるよう勅命を下した。
それが今からちょうど3年前の話――