SECT.1 闇ニ潜ム者
上官の元へ向かう途中、闇の中に敵を見つけた。
左手で長剣を抜刀し、問答無用で切りかかる。
「マルコシアス!」
間髪いれず幾多の困難を共に切り抜けてきた戦友の名を叫んだ。
同時に足元には黒々とした魔方陣が出現し、自分の頭上には純白の翼を持った褐色の肌の剣士の上半身が揺らめくように現れる。
褐色の肌の戦士――マルコシアスは炎妖玉と碧光玉が一つずつ嵌め込まれた瞳を細めた。
「珍しいな セフィラか」
「そうです!」
暗闇でもわかる敵の銀髪を目印に、静まり返った真夜中の街を駆け抜けた。
敵は銀のブレイドを閃かせて身軽に夜の街を駆ける。壁を蹴って屋根に駆け上がり、そのまま屋根の上を跳んでいく。
「逃がすか!」
マルコシアスの力を借りて、空に飛び上がった。腰まである黒髪が風に靡いた。
軽く屋根を凌駕して銀髪の姿を追う。マルコシアスの加護を受けている今人間相手に勝てないはずがない。
特に今は夜、セフィラの力は使えないはずだ。
すぐに追いついて左手の剣を振り下ろした。
敵である銀髪の男は銀ブレイドでそれをはじき、さらに攻撃を仕掛けてきた。
横から凪ぐような攻撃を逆手にとって懐に入ると、剣の柄で腹部に強烈な打撃を加えた。
「かっ……」
衝撃で銀髪の男を吹っ飛ばした。
屋根から落下した敵を追って即座に飛び降り、さらに一撃を加えた。
落ちた路地裏で再び空に舞った敵は、すさまじい音を立てて壁に突っ込み地面に伏せて動かなくなった。
「完全に 気を失ったようだ」
「……そうらしいですね」
ゆっくりと銀髪の敵に向かって歩を進めようとすると、そこへすばやく影が飛び込んできた。
突き出された銀のブレイドをすれすれでかわすと、さらにその影は攻撃を仕掛けてきた。
金属音が響きわたる。
数合打ち合った後距離をとった。
まだ敵の仲間がいたとは……油断した。
が、後から飛び込んできた仲間の顔を見て声を失った。
「なっ、お前……!」
先ほど路地裏に叩き落した敵と全く同じ顔だったのだ。群青の瞳も陶器のように滑らかな白い肌も少し青みがかった銀髪もそっくりそのまま同じだった。
同一人物かと思ったが、先ほどの敵は完全に沈めたはずだ。それはありえない。
もう一人の銀髪は吼えるように叫んだ。
「『音』に手を出すな!」
敵意をむき出しに飛び掛ってきたもう一人に困惑しながらも立ち回る。
壁を駆け上がり屋根を蹴り、街中を縦横無尽に飛び回った。
そして気がつけば微かに空が白んできていた。
「くそっ!」
街の人間にこの戦いを見られるわけには行かない。
どうする……?
その一瞬の迷いを突いたのか、銀髪の人間は目の前から姿を消していた。
「油断したな アレイ」
「逃がしてしまいました」
「また 剣を交えるときが来るだろう 我は一旦魔界へ退く」
「はい。ありがとうございました」
朝日が昇るのと同調するように褐色の肌にオッドアイの戦士の姿は掻き消えた。