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街へ行こう! 1

朝起きると、まず動物の世話と放牧。

次に畑に水を撒いて、いくつか野菜を収穫する。

朝ご飯を食べて、洗濯をして、釣りに行く。

太陽が真上に昇った頃切り上げて帰って、お昼ご飯を食べる。

午後は調合の為の材料採取に出かけて、ある程度採取したら帰って、調合する。

陽が落ちてきたら動物を小屋にしまって、洗濯物を取り込み、夕飯を食べる。

最後にお風呂にゆっくり浸かって、寝る。

そんな風に日々を送っていたら、いつの間にか、季節は秋から移り、冬を通り越し、春になっていた。

あの日、食材を持って来た馬鹿天使に怒り、逃げられてから、ラクロさんにも馬鹿天使にも会っていない。

ただ時々、ラクロさんとは手紙のやり取りをしているから、まだ加護は切れていない。

けれど。


「……そろそろ、誰かと会話したいなぁ」


動物達に話しかければ、返事はしてくれる。

ただ、会話にはならない。

ラクロさんとは手紙のやり取りをしてるけど、たまにだし、私の質問にラクロさんが返答をするだけだ。


「……街、行ってみようかなぁ」


調合で作ったアイテムも大分貯まってるし、そろそろ売るのもいいかもしれない。

それに、周辺にある材料では作れない物もたくさんある。

街に行けば、そのアイテムの材料が売ってるかもしれない。

危険察知のスキルと地図を頼りに進めば、時間はかかるけど、危険なものには遭遇しないし。

何より、街に行けば人がいる。

街で、友達を作るのもいいかもしれない。

いや、作りたい。


「……よし、必要なものを準備して、街に行こう!」


今まで作った物と、地図と、あとお弁当!

時間かかりすぎて日帰りが無理だった時の為に、動物達にはたくさんエサをあげておかなくちゃ!

よぅし、念のため明日は早起きするぞ~!







「……み、見えた……街だぁ!」


魔物やら何やらを徹底的に避けながら歩いて来たら、予想以上に時間がかかった。

前にラクロさんは街まで4時間と言ってたけど、きっと4時間など軽くオーバーしてると思う。

つ、疲れた……。

途中、馬車とすれ違った。

何人か人が乗っていたから、乗り合い馬車だろう。たぶん、街道沿いを走っているんだと思う。

『街へ行くなら乗ってくかい?』と声をかけられたけど、お金がないからと断った。

アイテム売ってお金を手にしたら、帰りは是非利用したい。

歩くのはもう、懲り懲りだ。

街門の側まで行くと、人が1列に並んでいるのが目に入った。

……何してるんだろう?

並んでいる人を横目に、私は街へ入ろうとした。

すると。


「あっ? こらこら、そこのお嬢ちゃん。駄目だよ、街へ入るなら、ちゃんと並ばなきゃ」

「えっ?」


肩を掴まれ、そう声をかけられた。

並ぶ、の?

何で?


「ほら、後ろに回って。割り込みなんてズルはしちゃいけないよ」


……ええと。

よくわからないけど、並ばないといけないみたい?

そういう決まりがあるのかな。

なら……仕方ないか。

私は列の一番後ろに並んだ。

う~ん……街について、ラクロさんに聞いてから来たほうが良かったかな?

当然だけど、私はまだまだ非常識っぽい。

なるべく変な事はしないように、気をつけないと。


「はい、次の人!」

「ん?」


あ、私の番みたいだ。

私は鎧を着てるお兄さんの前に立った。

恐らくこの街を守る騎士さんか兵士さんなんだろう。

お兄さんは私を見ると柔らかく微笑んだ。


「おや……これは、可愛らしい冒険者見習いさんだな。歩いて冒険してたのかい? 疲れてないか?」


……冒険者、見習い?

ああ、やっぱりあるんだ、冒険者って職業。

てことは当然、ギルドもあるんだろうなぁ。


「それにしても、一人でとは、勇気あるな。さ、身分証出して。すぐ終わらせるから」

「……えっ?」

「え?」


……身分証って、何ですか?

美味しいの?

……って、やってる場合じゃない!

これ、その身分証がなきゃ街に入れないパターンだ!


「嘘でしょう……長時間かけてここまできたのに」


私は頭を抱えた。


「……ああ、お嬢ちゃん、身分証持ってないんだね? てことは、街の外に住んでるのか」

「え?」


顔を上げると、お兄さんは納得したように頷いている。


「たまにいるんだよ。冒険好きが講じて街の外に住む冒険者の夫婦。で、その子供が身分証の存在を知らずに街に遊びに来るんだ。ちょうど、今のお嬢ちゃんみたいにな?」


……ええと。

かなり誤解があるようですが……そういう事にしておいたほうがいいかな?


「じゃあ、身分証発行しに行こうか。街の人間でなくても、ギルドなら発行できるからな。案内するよ」

「え? ……あの、わざわざ案内してくれなくても、場所を教えて貰えれば、一人で行けます」

「おお、それは偉いな。……けど立場上、身分証を持たない人間に一人で街を歩かせる訳にはいかないんだ。例え、子供でもな」

「あ……!」


そっか、そうだよね。

うん、もっともだ。


「……おーい、要案内人が来たから、ここ頼む! さ、行こうかお嬢ちゃん」

「はい。すみません、お願いします」

「お、わかってくれたか。賢いな。それに礼儀正しい。いい子だなお嬢ちゃん」


お兄さんはそう言ってぐりぐりと私の頭を撫でた。

うん、完全に子供扱いだね。

……子供だけどさ。







ギルドは大通りにあった。

かなり大きくて、立派な建物だ。

中に入ると、お兄さんはひとつのカウンターに私を連れて行った。


「すみません。この子に身分証を発行してあげて下さい」

「はい、かしこまりました。お嬢ちゃん、お名前と、年齢を言える?」

「あ、はい。か……えっと。クレハ・カハラです。8歳です」


たぶん、名前が先で苗字が後、で合ってるだろう。


「クレハちゃんね。8歳なら、冒険者見習いね。それじゃ、この水晶に両手をかざして貰える?」

「はい」


受け付けのお姉さんが置いた水晶の上に両手をかざすと、水晶が光った。

その光はすぐに水晶を離れ、ふよふよと漂って、カウンターの上に落ちた。

光が消えると、そこには1枚のカードが置かれていた。

お姉さんはそのカードを取った。


「クレハ・カハラ。10月1日生まれ。8歳。職業、錬金術士。……はい、間違いないわね。どうぞ、これが貴女の身分証よ」

「あ、ありがとうございます」


私は身分証を受け取った。


「へぇ、お嬢ちゃんは錬金術士なのか。凄いな。道理で賢いわけだ。……その籠の中身は、錬金術で作ったアイテムかい?」

「あ、はい。いっぱい貯まったから、売ろうと思いまして」

「そうか。なら、このギルドで売るといい。それが一番安全だ。売買カウンターはあっちだ。行こうか」

「え、あ、はい」


……なんか、すっかりこのお兄さんのペースだなぁ。

まあ、売れるならどこでもいいけど。


「すみません、買い取りをお願いします」

「はいよ。物は何だい」

「この小さな錬金術士さんの作品ですよ」

「ほぅ? こんな小さいのに錬金術士なのか。凄いな嬢ちゃん!」

「……どうも。これ、お願いします」


私は持っていた籠をカウンターの上に置いた。

どさり、と音がする。


「お、いっぱいあるな! どれどれ?」


買い取り受け付けのおじさんはアイテムを手に取ってまじまじと見ている。


「……。……なぁ、これ、本当に嬢ちゃんが作ったのか?」

「え?はい」

「……そうか。……」


……何だろう?

おじさんはアイテムを見ながら何か考えこんでいる。


「……どうか、しましたか? この子のアイテムが、何か……?」


え、お兄さんの声がなんか少し低くなってるんだけど……何で?


「いや……。……嬢ちゃん。依頼、受けてみるか!」

「へ?」

「依頼を!? ……しかし、この子はまだ見習いですよ?」

「腕があるなら関係ねえさ。どうだい嬢ちゃん? 普通に売るより、ちぃとばかり高く稼げるぞ? ちょうど、この美容液を依頼に出してる人がいるんだ」

「高く? あ、なら、そのほうがいいです。お願いします」

「よし。じゃあ、これは依頼品として引き取る。これが報酬だ」

「え……わぁ、それ、銀貨ですよね!?」


報酬を受け取ろうと手を伸ばすと、お兄さんにその手を掴まれた。


「え?」

「待って下さい! 本当にいいんですか!? 見習いですよ!?」

「問題ねえと判断した。手を離しな兄ちゃん。子供とはいえ、立派な錬金術士に対して失礼だぜ?」

「……。……わかりました。そこまで言うのであれば、部外者であるこちらに異論はありません」


そう言うと、お兄さんは私の手を離した。


「……? ……ええと……」


これは一体、どういう状況だろう?

見習いが依頼を受けるのは、いけない事なんだろうか?

でも、それなら受け付けのこのおじさんがそんな話を持ちかけるわけはないと、思うんだけど……。


「……受け取っていいよ、お嬢ちゃん。君は凄いんだな」

「え……?」


凄いって、何がだろう?

よくわからないけど、とりあえず、報酬を貰っていいみたい?


「……じゃあ、報酬、いただきます」

「おう。……残りは、依頼にない品だから通常買い取りになるがいいか?」

「あ、はい」

「よし。で、だ。嬢ちゃん、調合の材料は買うのかい? ここでも売ってるぞ」

「え、本当ですか!? 何がありますか? 見せて下さい!」

「よしきた。ほらよ、一覧表だ」

「お嬢ちゃん。俺はもう街門に戻るよ。……良い観光をな」

「え、あ、はい。案内、ありがとうございました」

「ああ」


お兄さんは手を振って去って行った。

その姿が見えなくなるまで見送って、私は一覧表に視線を戻した。

あ、浮遊石がある!

それに丈夫な布に……怪鳥の羽根も!

やった、魔法のじゅうたんが作れるよ!

街への移動が楽になる~!!

他には?

他には何かあるかなっ?


「……ぶっ!」

「え?」


顔を上げると、おじさんが何故か吹き出していた。


「くくく……っ、いや、悪い。楽しそうで何よりだな嬢ちゃん」

「???」


何だろう……ギルドに来てから、よくわからない事が多いな?

まあ、特に気にする事でもない……のかな?

……疑問点は、あとでラクロさんに聞けばいいかな。

そう結論づけると、私は再び、一覧表を見つめた。

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