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新生活開始 4

地図頼りに川へ向かう。

地図を見る限り、川は、家からそんなに離れてはいないようだった。

これなら、魚が食べたくなったらすぐに釣りに行けるかな。

でも私、初心者だけど、釣れるかなぁ。

……今日は、何がなんでも釣らなきゃだけど……。

でないとご飯、食べれないし。

……ああ、何か不安になってきた。

思考がネガティブ方向に傾くのは、お腹がすいてるせいかな。

早く川に行こう。

私はそう思って足を速め、新たに一歩を踏み出した。

すると。

ピンコンッ。


「んっ?」


今何か、音がした?

ピンコンッ。

あっ、LINEの音だ!

誰だろ……って?

いやいや、私今スマホ持ってないでしょ。

ていうか、この世界にスマホないよね。

……という事は……この音、何?

ピンコンッ。

あ、また鳴った。

何なんだろう?

私は周囲を見回すと、ある方向に目を止めた。

……何だか、この方向の先に凄く嫌なものがある気がする……?

ピンコンッ。

あ、この音、こっちから聞こえる気がする。

……不思議な音と、嫌なものの……気配?

……もしかして、これが危険察知のスキル、とか?

だとすると、この方向の先にあるのは……。

……えっと、あ、大丈夫だ。

川の方向とは違う。

うん、ならさっさと離れよう。

私は地図を見ながら、音のする方向からそそくさと離れて行った。

ある程度離れると、音はしなくなった。

と同時に、嫌なものの気配も消えた。

やっぱりあれが危険察知のスキルだったっぽい。

……けど、LINE音て……いやいや、たぶん、私が馴染みのある音にしてくれたんだ、うん、そうに違いない。

その後も1~2回LINE音が鳴ったけど、川の方向とは違ったので、私は問題なく川に辿り着けた。

でも今後は、家から離れる時は何かしらのアイテムがあったほうが安心かもしれない。

そう思った。







そうして、かなり陽が傾いた頃。

私は家に帰ってきた。

リビングに入るなり、どさりと釣竿と籠を落とす。

籠の中身は……空だった。

……うん、甘かった。

釣り経験の全くない初心者が釣竿を垂らしてほいほい釣れるほど、魚達は易しくなかった。

やつらは器用にエサだけ食べて、逃げて行った。


「……お腹すいた……」


私のお腹はきゅるきゅると容赦なく音を立てて、空腹を訴えている。

しかし、食べるものなど何もない。

あ、何か、泣きたくなってきた。

でも、ないものは仕方ない。

今日はもう寝てしまおう。

明日になれば、きっとまたモモから牛乳が貰えるだろうし、ココだって、卵を産んでくれるかもしれないし。

うん、明日までの我慢だ。

……唯一の問題は、この空腹状態で満足に眠れるかという事だけど……うん、なんとかなるだろう、きっと……たぶん。

とりあえず、釣竿と籠を、ちゃんと倉庫に片づけないと。

そう思って、倉庫へと足を向けた、その時。

リビングのテーブルが、まばゆい光を放った。


「えっ……!? 何!?」


突然の事に驚いて、私はテーブルを凝視する。

光が消えると、そこには、湯気を立てたご飯と、焼き魚と、スープが出現していた。


「えっ! ご、ご飯!!」


私はテーブルに駆け寄った。

するとご飯の横に、紙が1枚ある事に気づく。

私はその紙を手に取って読んだ。


『困った事態が起きたなら、きちんと手紙を出して知らせて下さい。ラクロ』

「ラ……ラクロさぁぁん!! ありがとうございますぅぅぅぅ!!」


私はラクロさんに大感謝して、ご飯に手をつけた。







翌朝、ラクロさんのご飯で空腹を免れた私は、元気そのものの状態で目を覚ました。


「さて! まずは動物の世話して、モモとココから牛乳と卵貰って、ご飯にしよう!」


そう言いながら着替えて部屋を出て、一階に降りた。


「あっ、おはようございます華原さん!」

「えっ!?」


誰もいないはずの家からまたもや聞こえてきた声に、私は一瞬足を止める。


「昨夜はよく眠れましたか? 今日もいい天気ですよ!」

「あ……何だ、馬鹿天使か。……おはよう。何か用? ……ていうか、びっくりするから、来るなら連絡してから来てくれない?」


あ、左頬に湿布が増えてる。

ラクロさんの報告で、神様から追加の鉄拳制裁をされたんだろうか。

それとも、ラクロさんからだろうか。

……まあ、どっちでもいいけど。


「すみません。でも、急いでこれを渡さないとと思いまして」

「これ? ……ってちょっと! あんた人の家の冷蔵庫何勝手に開けてんの!?」

「え? でも、食材、必要ですよね?」

「へ? ……食材?」

「はい。さ、これで全部です! たんと食べて下さいね!」


そう言って馬鹿天使は私に冷蔵庫の中を見せた。

そこには、ぎっしりと見慣れた野菜が詰まっていた。

そう、見慣れた野菜。

慣れ親しんだ、日本の野菜だ。


「あ……。……これを、持ってきてくれたの? あ、ありがとう」


わびしい思いをしたばかりの私は、馬鹿天使に初めて心からのお礼を言った。


「はい、どういたしまして! ……けど、昨日はすみませんでした。冷蔵庫に日本の食材を入れておくよう先輩に言われてたのに、帰ったら僕、ついうっかり忘れちゃってて」

「……え?」


今、何て?


「夜また先輩に怒られちゃいました。あはは」


…………。


「ねえ……? それって、つまり、ラクロさんは私に、釣竿見せる事で、暗に魚を釣って食べるようにって言ってた訳じゃなくて、ちゃんと食材を手配するようにしてて、それをあんたが忘れたから、私があんな時間までわびしい思いをしなきゃならなかった、って……そういう事……?」

「……え?」

「……そういう、事なのね!?」

「えっ! ……ええと、すみませんでした!!」


声を荒げ、睨み付けた私に、馬鹿天使は勢いよく頭を下げ、すぐさま上げる。

そして次の瞬間、その姿は消えていた。


「あっ! こら~! 逃げるな馬鹿天使~!!」


私はそう叫んだが、当然、もう返事はない。


「もうっ! お礼なんか言うんじゃなかった!! ……次会ったら覚えてなさいよ~~~!!」


その日、私は気分を落ち着ける為、動物の世話の前に朝食をとる事にした。

メニューは、サラダと、すりおろしたリンゴ。

リンゴをする時、あの馬鹿天使の顔を思い浮かべていた事は、言うまでもない。

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