新生活開始 3
家の中を見て回り、いくつかある部屋の中から、二階の、陽当たりのいい部屋を自分の部屋に決める。
すると突然その部屋にタンスが出現した。
近づいてそのタンスを見ると、上部分が開き扉になっていて、下部分が四段の引き出しになっている。
開き扉を開けると、数枚のワンピースがかけられていた。
いや、ワンピースにしては丈が少し短いのもある。
ロング丈の服かな?
どうやら色ちがいの物が2着ずつ入っているみたいだ。
次に引き出しを開けてみる。
すると1枚の紙が服の上に置かれていた。
私は紙を手に取り、書かれている文字を読んだ。
『これらはラザルドールの服です。畑仕事や動物の世話などの事柄を考慮し、動きやすい物を入れておきます。貴女の好みではないかもしれませんが、当面は我慢してこれらを着て下さい。ラクロ』
「……我慢だなんて、とんでもないですよラクロさん。どの服も可愛い色じゃないですか」
ほとんどが無地のシンプルな物だが、女の子らしい色の物ばかりだ。
色を組合せてコーディネートを考えるのもまた、楽しそうだな。
あとでラクロさんにお礼の手紙を出さなきゃ。
私は開き扉と引き出しを閉めると、部屋を出て倉庫へ向かった。
倉庫には地図、種、ジョウロ、鍬、鎌、大きな籠、大量のガラス瓶、そして釣竿が置いてあった。
ガラス瓶は、調合で作った液体状のものを入れる為にあるんだろう。
あと、釣竿。
これがあるということは、近くに川でもあるのかな?
でも魚釣りってやった事ないんだよね。
ああでも、お魚食べたくなったらチャレンジしてみるのもいいかな。
魚はさばけるし。
釣竿を見てそんな事を考えながら、私は種とジョウロを手に取り、倉庫を出て畑へ向かった。
耕された場所に穴を開け、種を蒔き、土を戻し、水をかける。
それだけの単純作業は、わりとすぐに終わってしまった。
まだ陽は高い。
「う~ん。……家の回りを散歩がてら、錬金術の材料採取しようかな。ラクロさんによると、草花なら回りに自生してるらしいし……うん、よし、そうしよう」
何しろ、材料がなければ調合が始められない。
私は家に入って倉庫にジョウロをしまうと大きな籠を手に取り、リビングの本棚から調合図鑑を取りだし、再び家の外へと出た。
家を目印に、周囲をぐるっと歩いて回る。
すると基礎中の基礎、中和剤の材料である赤い草、青い草、緑の草、白い草が自生しているのを見つけ、採取する。
「中和剤は必須だけど、植物栄養剤も早めに作りたいなぁ。野菜を1日も早く収穫する為にも……」
そう思った私は、その場に立ち止まって調合図鑑を捲った。
「植物栄養剤、植物栄養剤……あ、あった」
植物栄養剤。
植物の成長を助ける。
材料ー緑の草、蒸留水、緑の中和剤。
「え、これだけ? ……緑の草は採取したし、蒸留水は水があれば作れるし、緑の中和剤も緑の草で作れるから……やった! 作れる!」
早く帰ろう!
……とと、駄目だ、落ち着け私。
帰るのは家の回りを一周して採取できる物を全て採取してからだ。
どこかにまだ採取してない新しい材料があるかもしれないんだし。
見落として作れる物の種類をはばめたら元も子もない。
私は逸る気持ちを抑え、家の回りを一周してから家へと戻った。
家に戻った私は早速調合に取りかかった。
時間短縮スキルを使い、次々とアイテムを作り出していく。
そして気づけば材料がなくなっていた。
「あれ……もう使い切っちゃった?」
そう呟いて後ろを振り返れば、そこには中和剤各種と植物栄養剤の山ができていた。
「え? あれ? ……私いつの間にこんなにたくさん作ったんだっけ……?」
調合に夢中になってて全く気づかなかった……。
「ま、まあ、中和剤はいくらあっても困らないだろうし、植物栄養剤は畑に使えるしね。問題ない問題ない。うん」
とりあえず、今日の調合は終わりにして、これらは倉庫にしまおう。
そういえばお腹すいたなぁ。
片付けたらご飯にしよう。
私は倉庫と調合部屋を何度か往復して、中和剤類と植物栄養剤を倉庫にしまった。
「さぁて、ご飯ご飯~…………え?」
キッチンへ移動した私は冷蔵庫を開けて……フリーズした。
冷蔵庫の中は、空っぽだった。
「……え。え? 何これ? 何で? どうして何も入ってないの? 食材は? 私のご飯は?」
ラ、ラクロさんに手紙……!
そう思ってリビングのテーブルに置いてある便箋を見たところでーー気づいた。
倉庫の、あの釣竿の意味に。
ラクロさんは、後ほど倉庫を確認して下さい、と言っていた。
あれは、この為だったんじゃないだろうか?
つまり、釣竿を見て、魚を釣りに行くように、という事だったんじゃ?
今日のご飯は、魚を釣って食べるようにって……。
……あああ馬鹿!
私の馬鹿!
それに気づかず、調合に没頭しちゃったよ!
と、とにかく、今からでも釣りに行かなきゃ!
早くしないと夕飯まで食べられなくなるよ!
あっ、でも川の場所……は、地図に書いてあるか!
よし、急ごう!
川へ向かって急いで出発~!!
……でも、ラクロさん。
欲を言えば、それならそうと、さっききちんと言っておいて欲しかったよ……。