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新生活開始 2

牛乳を飲み終わり、コップを流し台へ片づける。

そのまま洗ってしまおうと洗剤とスポンジに手を伸ばした。


「ああ、すみません華原さん。お話があります。申し訳ありませんが、後にして、座って戴けますか」

「話? 何でしょう?」


ラクロさんからかけられた声に、私は素直に席に戻った。


「このラザルドールについて、話しておこうと思いまして」

「ラザルドールについて? え、それ、さっきの場所で聞きましたよ? ファンタジー世界で、魔王がいて、各国それぞれ勇者を立ててる。ですよね?」

「ええ、そうです。ですが、それとは別に、基本的な…所謂一般常識について、お話します」

「あ。……そっか、もちろんそれも日本とは違いますもんね。……わかりました。お願いします」

「はい」


そのあとのラクロさんの説明をまとめると、こうだ。

ラザルドールの1年は13ヶ月。

1ヶ月は28日。

季節は春夏秋冬。

冬だけ1ヶ月分長いらしい。

お金は硬貨のみで、種類は銅貨、緑銅貨、青銅貨、白貨、銀貨、金貨。

日本円でいうと、銅貨ー1円、緑銅貨ー10円、青銅貨ー100円、白貨ー1000円、銀貨ー10000円、金貨ー100000円、らしい。

呼び方は、マニー。

1マニー、10マニー、というそうだ。

お、覚えておかなきゃ……。


「とりあえずは、以上です。不明な点があれば都度、手紙で聞いて下さい」

「ちなみに、今この世界は秋ですよ。10月1日です。ねっ、先輩」

「ああ。……華原さん。最後に、貴女の年齢と誕生日ですが、年齢は8歳、誕生日は今日、10月1日となります。……この世界に新たに生を成した日、という事でご理解下さい」

「……ああ、なるほど。わかりました。でも、8歳って? 9歳じゃなかったんですか?」


……あれ、待てよ?

そういえばラクロさんは、年齢は一桁ほどって言っただけで、9歳、とは言ってなかった……かな?


「ええ……貴女が9歳、と口にされたので、9歳がいいのだと思い、その年齢になるよう肉体を作ろうとしたのですが。……スキルをいくつか追加した為、肉体に負荷がかかり、軽減する為もう少々幼くする他ありませんでした。申し訳ありません」

「肉体を0歳から作るなら、どれだけスキルや能力つけても問題なく馴染ませられるんですけどね。そういう能力やスキルを持った人物を誕生させるのと同じですから。けど、ある程度の年齢の体を作るとなると、付加した能力やスキルに肉体が耐えられるように調整しなきゃならないんです。大変なんですよ? 華原さん、先輩にどれだけスキル付加させたんですか? その分だけ調整難しくなるのに」

「え……あの、ごめんなさいラクロさん。お手数おかけしまし」

「……何を偉そうに言ってるこのドジが!!」


えっ。

私は目の前の光景に目を瞬いた。

突然ラクロさんが声を荒げ、隣に座っている馬鹿天使を蹴り倒した。

椅子ごと。


「いったぁ! な、何するんです先輩!?」

「やかましい! お前に華原さんを非難する資格などない! 誰のせいでこんな事になったと思ってる!」


ラクロさんは椅子から立ち上がり、馬鹿天使を睨み付けた。

おお、けっこうな迫力だ。


「彼女はここに住む為の必要なスキルを望んだだけで、1度も無茶は迫らなかった! 俺はその事に感謝している! こちらがした事を考えれば申し訳ないくらいだ! ……それを、元凶のお前が偉そうに……っ。反省の態度が見られないと、神様に報告が必要だな!」

「え、ええっ!?」


え、無茶……望まなかった、かな?

望んだような気がするけど、気のせい?

無茶のうちに入らないって事かな?


「……華原さん、失礼しました。このドジ馬鹿が言った事はお気になさらずに。大した手間ではありませんから」

「え、そ、そうですか? なら、良かったですけど」


でもきっと、ラクロさんが言うほど簡単じゃあなかったんだろうな。

なのに、私が気にしないようにこう言ってくれてるんだろう。

ラクロさん……いい人だ。


「……話を戻しましょう。作物の種は秋用の物を倉庫に入れて置きました。後ほどご確認下さい。それと、錬金術の材料ですが、草花は家の周辺に自生しています。最初はそれらで作れる物を作成し慣れるといいでしょう。それらを街で売れば、金銭が手に入ります。それを元に、街でまた別の、新しい材料を買うといいでしょう」

「あ、はい、そうですね。……えっと、そういえば、ここは街の近くって事でしたが、街へはどう行けば?」

「ああ。ここは小高い丘の上なので、丘を下り、森を抜け、街道をしばらく歩くと街に着きます。詳しくは倉庫に魔法の地図がありますので、参考にして下さい。迷った時の為に、現在地が表示されるようにしておきました」

「わぁ、ありがとうございます! ……でも、えっと。丘を下りて、森を抜けて、街道を……って、時間にすると歩いてだいたいどれくらいかかるんでしょう?」

「歩いて……。……そうですね、4時間ほどでしょうか」

「……へえ、そうなんですね……」


片道4時間。

魔物とかも出るから、それを避けて進む事考えると、もっとかかるよね。

……街へは……必要になったら行こうか……。


「他に質問はございますか?」

「あ、いえ。とりあえず大丈夫です。何かあれば、手紙でお聞きしますね」

「わかりました。では私どもはこれで失礼します。……どうかここでの生活が、貴女にとって良いものとなりますように。ささやかながら、見守らせて戴きます」

「はい、ありがとうございます。さようなら、ラクロさん。本当に色々、ありがとうございました」

「いえ。……それでは、また。……おい、行くぞドジ馬鹿」

「は~い……それでは華原さん、また~」


そう言って立ち上がると、次の瞬間には、二人の姿は消えていた。

……んーと。

ラクロさんも馬鹿天使も、また、って言ってたよね。

会うのはこれで最後だろうと思ったけど……そうじゃないのかな?

だとしたら嬉しい。

馬鹿天使はどうでもいいけど、ラクロさんにはまた会いたい。


「……さてと! 切り替え切り替え。コップ片して家の中確認して、早速畑に種植えなきゃ! 錬金術も早速やってみたいし、行動行動!」


まずはコップを洗うべく、私はキッチンへ足を向けた。

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