新生活開始 1
足が地に着く感覚を覚え目を開けると、正面に家があった。
丸太で組まれた、ログハウス風の2階建ての家。
「わぁ……これが私の新しい家? だよね? 凄い、ログハウスだ! ……今いるのは、庭かな? 畑は……っと」
私は辺りを見回した。
すると右後方に耕された畑があった。
「あ、あれだ! あったあった。うん、広さに問題なし、と」
私は畑に近づき、満足げに頷いた。
「あと、動物小屋……は、あっちの、あれだね。もう動物いるのかなっ?」
私は家を挟んで反対側にある動物小屋に駆け寄り、中に入った。
「あ、いたいた! 初めまして、モオ、メエ! 私は華原紅葉だよ! 今日からよろしくね!」
私は笑顔で中にいた動物ーモオとメエーに、挨拶した。
「モオ~!」
「メエ~!」
二頭とも元気に返事をしてくれた。
「そうだ、名前つけなきゃね! 貴方はモモ、貴方はメメね!」
私は、某牧場経営ゲームで、必ず最初に手に入れた牛と羊につける名前をつけた。
牛がモモ、羊がメメである。
「えっと、あとは鶏は……さらに隣にあった小屋にいるのかな? 見てくるね。またあとで世話しに来るね、モモ、メメ!」
「モオ~!」
「メエ~!」
私は二頭に見送られ、隣の小屋に向かった。
中に入ると、やはり鶏が一匹いた。
「君がコッコだね? 初めまして! 華原紅葉だよ。今日からよろしくね!」
「コッコッコ!」
私はモモやメメにしたようにコッコにも挨拶をした。
コッコも元気に返事をしてくれる。
「君の名前は、ココね!」
私はコッコにも同じように名前をつけた。
「さて、まずはエサだよね。エサは……っと。……あの棚にあるのかな? ちょっと待ってね」
私は小屋の端にある棚を見つけ、その前に立った。
棚を覗くと、一番下に鶏のエサと書かれた茶色の紙袋があった。
袋は思いの外小さく、いくつか積み上げてある。
「これは……ラクロさん、私が持ちやすい大きさにしてくれたのかな? あとでお礼言わなきゃ。……お待たせココ! ご飯だよ~!」
私が袋を持ち上げ、エサ箱らしきものにエサを入れると、ココが歩いてきて、エサを啄んだ。
「たくさん食べなね。さて、モモとメメにもご飯あげなきゃ。それじゃココ、また明日ね」
「コッコッコ!」
私はココに声をかけると、動物小屋に戻った。
動物小屋にも同じ位置に棚があり、そこにブラシと銀色の容器とハサミ、そして一番下に、干し草が積んであった。
「この容器に搾った牛乳入れるのかな……? まずエサをあげないとだけど、やってみたいなぁ。……モモ、メメ! お待たせ、ご飯だよ」
私は腕一杯に干し草を抱え、エサ箱に入れた。
それを見たモモとメメはエサ箱の前に移動し、食べ始める。
私は棚から銀色の容器を取りだし、モモの隣に立った。
「モモ。食事中に悪いけど、ちょっと搾らせてね」
モモに一声かけてから、私はそっとモモの乳を握った。
すると牛乳が出て、容器に入る。
「おお……乳絞り初体験!これは、楽しい……!」
私は、容器の半分ほどに牛乳が溜まるまで、夢中で乳を搾り続けた。
「ああ、楽しかったぁ~」
私は牛乳が入った容器を抱えて、家のドアを開けた。
「さて、次はいよいよ家の中を確認~っと!」
「え? まだ一度も家の中に入っていなかったのですか?」
「へっ!?」
誰もいないと思っていた家の中から声が聞こえて、私は驚き、一瞬硬直した。
「あ……驚かせて申し訳ありません。図鑑をお持ちしました」
「え……あ、ああ、ラクロさん。すみません、ありがとうございます。……家を確認するより先に動物達に挨拶してたもので。あ、そうだ! エサの袋、小分けにしてくれたんですよね? お気遣いありがとうございます。あ、お礼に、搾りたての牛乳いかがですか? 楽しくてつい、一人で飲むには多く搾っちゃって。一緒に飲んでくれるとありがたいです」
「搾りたてですか。それはいいですね。頂きます」
「僕も! ありがとうございます、華原紅葉さん!」
「どういたしまして。それじゃ……。……ちょっと待って。何であんたまでいるの? 馬鹿天使」
私からは死角になって気づかなかったが、ラクロさんの向こうに、あの馬鹿天使がいた。
あれ、右頬に湿布してる?
さっきはしてなかったのに。
……神様の所に行ったはずだし、神様かラクロさんから、私の件で鉄拳制裁でもされたとか?
なら……うん、同情はしない。
「僕も図鑑の作成と運搬を手伝ったからですよ! 地球の、それも日本の食材については、先輩より僕のほうが詳しいですから!」
湿布した馬鹿天使は、明るくそう言う。
痛みはないんだろうか?
ならもう少し強く殴っても良かったんじゃ……とと、こういう考えは良くない。
……えっと、そうそう、食材の話だった。
「……日本の、食材?」
「ええ。日本の食材が、このラザルドールではどの食材になるのかを、ルークに手伝わせ、図鑑に記載しておきました。食事を作る上で、役に立つと思いまして」
「あ……!そっか、日本と同じ食材はあるけど、名前とか形は違うんでしたね。わぁ、ありがとうございますラクロさん。本当に助かります。手間だったでしょう? すみません」
「いえ、構いません」
「え、お礼の言葉は先輩限定? あの、僕も手伝ったんですよ~……?」
「……うっさい、馬鹿天使。あんたにお礼なんか言わない」
「……ええ~……」
「まあ、仕方ないから、牛乳は飲ませてあげる。感謝してよね」
「えっ、やった! はい、ありがとうございます! 感謝します!」
え、本当に感謝するんだ?
……ま、まあ、いいけど。
私は家の中を見回し、キッチンを見つけた。
キッチンに行き、棚からコップを3つ出し、容器から牛乳を注いだ。
「じゃあラクロさん、こちらへどうぞ。……馬鹿天使も」
そう言って、近くに設置されたテーブルにコップを3つ置き、椅子に座る。
ラクロさんと馬鹿天使も席についた所で、3人揃って牛乳を飲む。
うん、美味しいっ!
「……あのぅ、華原さん。僕の名前、ルークっていいます」
「あ、そ。でもあんたのあだ名は、馬鹿天使よ」
「え、そんな……うぅ……」
「まあ、華原さんにした仕打ちを考えれば、仕方ないな」
「せ、先輩……!」
コップを手に項垂れる馬鹿天使を無視して、私は美味しい牛乳を堪能した。
もし誤字脱字等ありましたらお教えいただけると幸いです。