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捕獲作戦 4

今日二回目の更新です。

キャタビーは、ちょっと大きな芋虫だった。

シヴァくんとライルくんが後ろに回って逃げ道を塞ぎ、フレンさんが私の後ろから攻撃の指示を出してくれた。

そのおかげで私の初めての戦闘は、何の問題もなく終わった。

…キャタビーを倒した時の、"プチッ"とか、"グシャッ"なんて音、私は聞かなかった…うん、何も聞いていない…。

…戦闘をこなしていけば、いつかそんな事にも慣れるだろうか…はあ。


ピンコンッ。

あ、またLINE音だ。


「クレハ様、前方にスライムが二匹います。倒されますか?」

「あ、今度はスライムなんだ?」

「はい」


私の危険察知のスキルは、危険な存在がいる事はわかっても、その存在が何かまではわからない。

ライルくん、凄いなぁ。


「そうだね…戦おうかな。経験積んで、レベル上げなきゃ」

「うん、いい心構えだね。なら、この先、クレハちゃんの家までの通り道周辺にいる魔物は倒して進もうか」

「は、はい。頑張ります!」

「わかりました。では行きましょう」

「うんっ!」

「……………」


こうして私は家に着くまで、ライルくんの案内の元、魔物との戦闘に精を出した。

戦闘する事に必死で、シヴァくんが一言も話さなくなった事に、気づかないまま。






「ウォン!ウォン!」

「あ、コタ!ただいま!」


家に帰ると、コタが一目散に走ってきて、足下に飛びついた。

私はコタを抱き上げ、もふもふを堪能する。

ライルくんのふさふさ尻尾とシヴァくんのさらさら銀髪への鬱憤を、コタで癒した。


「さて、私、荷物片づけて、動物の世話と畑の水やりをしますから、フレンさん達は家に入って寛いでいて下さい。詳しい事は省きますが、家の敷地内なら、私が一人でいても大丈夫なので」

「へえ?…あ、それなら何か手伝うよ」

「え?…そんな、いいですよ。お客様なんですから、リビングでお茶でも飲んでいて下さい。…あ、申し訳ありませんが、お茶はご自分で淹れて下さい。キッチン、勝手に使って下さって構いませんから。それじゃあ、またあとで」


私はそう言い終えると、荷物を置きに倉庫へ向かった。


「う~ん、"お客様"か…。クレハちゃんはそういう認識だったか。やれやれ…。…なら今だけ、言われた通りにしようかな。ライル、シヴァ、お茶飲むかい?」

「えっ、よろしいのですか?」

「クレハちゃんがいいって言うんだから、とりあえずいいと思うよ。今だけは、ね。クレハちゃんの手が空いたら、しっかり話すから、それまで、って事で。さ、行こうか」

「は、はい」

「…俺、客じゃない、です」

「うん?…ああ、そうだね。君は絶対に違うね、シヴァ。…でもどうする?ご主人様はもう行ってしまったよ。追いかけるかい?」

「……。…探索魔法、教えて下さい」

「うん?」

「…俺、使えないから。…修得、必須です。だから、教えて下さい」

「ああ、なるほど。わかった。すぐに始めるかい?」

「はい」

「ん。…ライル、悪いね。お茶は一人で飲んでくれるかな」

「えっ、い、いえ!僕も何か協力します!」

「そう?なら、探索魔法でライルの気配を探る事から始めようか」

「はい」






数時間後、私は調合室にいた。

必要な材料を用意し、図鑑を開く。


「えっと…双剣、双剣…あ、あった。う~んと…ああ、これだ。ツインエッジ」


ツインエッジー銀鉱石×2 魔物の牙


「よし、作ろう。…う~ん、でもやっぱり最終的にはプラチナセイバーかミスリルセイバーだよねぇ。プラチナ鉱石とミスリル鉱石が手に入ればなぁ。それから防具。…これもプラチナの鎧とかだよねぇ」


私は図鑑を捲って溜め息をつく。


「…まあ、ないものは仕方ない!とりあえずある物で作ろう!うん!」


私はそう一人ごちると、調合を開始した。

もちろん、時間短縮(スキップ)スキルを使うので、そんなに時間はかからずに終わる。

所要時間は数分だ。


「よし、できた!シヴァくんの武器、完成!」

「…俺の武器…?」

「えっ!?…あ、シヴァくん!」


突然聞こえた声に後ろを振り返ると、シヴァくんが調合室の入り口に立っていた。


「お帰り!どこに行ってたの?家に入ったら誰もいないから驚いたよ。まあ、リビングに『出掛けてくるね』って置き手紙があったから、心配はしなかったけど」

「探索魔法、教わってました」

「へ?探索魔法?」

「…今日、俺、大して役に立ててないから。貴女の契約奴隷、俺なのに。…でも、明日からは、俺も魔物の探索、できます。…ライルには、まだ敵わないけど」

「え」


『役に立ててない』……って。

…そういえば、森に入ってから、シヴァくん全然喋らなかったような……わわ、もしかして、ずっとそれ気にしてた……!?


「あ、あのねシヴァくん?役に立つとか立たないとか、別に気にしなくていいんだよ?」

「…?…どうして、ですか?」

「えっ!?ええっと~……」


どうして、と言われても。

う~~ん、何て答えたらいいんだろう?

…アイリーン様、ヘルプミー…。


「…シヴァ。クレハちゃんは、自分にできる事を頑張ってくれればいいって、そう言ってるんだよ」

「あっ、フ、フレンさん!」


返答に困っていると、フレンさんが現れた。


「…できる事…。…わかりました、頑張ります」

「えっ?」


そう言うと、シヴァくんは調合室を出て行った。

…あ、双剣、渡し損ねた…。

…ていうか、『頑張ります』、って…。


「あの、フレンさん?シヴァくん、あれ、何か違う意味に受け取ったんじゃ…?」

「そうだね。…けど、契約奴隷としてはそれで正しいと思うよ?」

「…う…『契約奴隷としては』、ですか…」

「うん。…まあ、クレハちゃんの言いたい事はわかるけどね。アイリーン様の屋敷のように、他の契約奴隷がいるわけでもないから、主人と他の契約奴隷の接し方を見て理解し、自分もそれに倣うって事もないし、関係がきっちりしたものになるのは仕方ないよ。だから最初はシヴァに合わせてあげてくれないかな。焦らず、少しずつゆっくり、クレハちゃんとシヴァだけの主従関係を作っていってよ。ね?」

「…うぅ…あくまでも、主従関係なんですね…」

「うん、そりゃあね。契約してる以上は仕方ないよ。アイリーン様だって、そこは理解して割りきってらっしゃるよ?」

「…はあ…わかりました…」

「ん。それじゃ、頑張ってね」

「…はい。とりあえず、シヴァくんにこれ、渡してきます」

「うん。あ、自分の武器を作るのも、忘れずにね?」

「えっ?私にも武器必要ですか!?」

「何言ってるの、当たり前だよ」

「…はあ。あ、ちなみにフレンさんは…?」

「ん?僕は投げナイフだよ。風の精霊の力を借りて、軌道を変えて複数の魔物を貫けるんだ」

「な、なるほど…」

「でも、クレハちゃんには、杖がお勧めかな」

「杖ですか…そうですね、そうしようかな」

「うん。…で。シヴァを追いかけるんじゃなかったの?」

「あっ!!そうでした、失礼します!!」

「転ばないようにね~!」


慌てて駆け出した私に、後ろから微かな笑いを含んだフレンさんの声がかかった。

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