移住準備 2
「では次に家ですが、立地はどんな所がよろしいですか? ……畑を耕し動物を飼うなら、それなりに広い土地が必要ですね。となると街中はちょっと不都合が……。田舎の村ならば可能でしょうか」
あ、家の場所とかも決められるんだ。
でも、田舎の村かぁ……。
「あの、その田舎の村って、たとえば施設はどんなのがありますか? 服とか、日用品とかを買える店とかあります?」
「店ですか? ……あまり品揃えの幅がない小さなよろず屋が一軒か、行商人が来るのみ、といった所でしょうか」
「う、それはちょっと……。ならあの、街中でなくて、街外れとか、近くに街がある所のほうがいいんですが」
買い物はきちんとしたい。
「……街外れか、近くに街、ですか。なら良い場所がありますが」
「え、本当に? ならそこで!」
「……ですが。それだと魔物や野盗などに襲われる可能性がありますが、それでもよろしいですか?」
「うっ!!」
それは……よろしくないです。
ああ、どうしよう。
安全第一で、満足に買い物できなそうな田舎の村にする?
それとも錬金術アイテム頼りで街の近くにする?
でもそれだと、夜に、寝てる隙に襲撃されたらこの上なくマズイよね……。
う~~~~ん……んっ?
「あのぅ……ちなみに、防犯に関する便利スキル貰えたりとかは……可能です……?」
「……ええ、可能です。どういったものを付けますか?」
「わ、やった! ありがとうございます! えっと、じゃあ、魔物とか盗賊とか、よくないものが近くに現れた時に素早く気づいて逃げられるような……危険察知のスキルと、もし家の敷地に入られた時に強制退去させられるスキルと、あと……空き巣対策に、外出時に誰も家の敷地に入れないよう結界張るスキル、お願いします!」
「……悪意ある生物に対する危険察知と、家の敷地内に侵入された場合の強制退去と、留守時の家の敷地への侵入不可スキル、で、よろしいですか?」
「はい!」
「わかりました。では、家の場所は街の近くでよろしいのですね?」
「はい、お願いします!」
「……。……わかりました」
……あれ?
今、ラクロさんの返事、わずかに間がなかった?
な、何だろう……あっ、私、スキル望みすぎた?
それで呆れたか、怒ったかしちゃったとか?
うう、でも安全の為には必要だし……。
「では次に。畑の規模と動物の種類と数ですが、どの程度がよろしいですか? 動物用の小屋は、種類と数に合わせてこちらで大きさを決めますが、よろしいでしょうか」
「えっ!? ……ええと……」
「? ……どうしました?」
「……いや、あの~……。……ごめんなさい。私、調子に乗って、色々望みすぎてます……よね……?」
「え? ……いえ、そんな事は全くございませんが」
「えっ? ……でもさっきラクロさん、返事に間が……」
「……ああ。失礼しました。あれはただ、貴女が望むのはそこに住む為に必要なスキルだけなのだなと、思いまして」
「えっ?」
「貴女は、こちらのミスで異世界への移住を余儀なくされたのです。本来、こちらはもっと強気に無理を望まれても仕方ない立場ですから」
「へ? 無理……って?」
「……例えば、そんな危険な場所や不便な場所は嫌だ、街中に自分の望む生活が出来るだけの広い土地を用意しろ、とか」
「え!? ……いや、だってそれは。そもそも、こちらのミスって、ミスしたのはあの馬鹿天使であって、ラクロさんは……。ミスした当人の加護を拒否して、無関係のラクロさんの加護を望んだ時点で、私すでに無理を望んでますし」
「……無関係ではありません。私は神様より、あのドジ……いえ、ルークの教育係を任されていますから。ですから、教育不十分という点で、私にも責任はあるのですよ」
「あの馬鹿天使の教育係ですか……それは、大変ですね。ラクロさん」
激しく同情します。
「けど、家の場所については街中でなくて大丈夫です。ちゃんと安全対策のスキル貰えるなら、問題ないです」
「……ありがとうございます。では、話を戻しますが」
「あっ、はい。畑の規模と動物ですね。……ん~。畑は、私が毎日満足に食べていけるだけの収穫量が取れれば問題ないかな。……あっ、でも、将来家族ができたらそれじゃ足りないか。ああでも、九歳児の体力考えるとあんまり広くても……。……うん、畑は、小さくていいです。でも将来もう少し広げられるように場所に余裕あると嬉しいです」
「はい、わかりました。動物はどうされますか?」
「動物は……いや、その前に。動物の種類、地球と同じですか?」
「あ。……そうですね。その説明が先でした。基本、生息する動物は同じです。ですが、姿形が違います。これは食物も同じです」
「ああ、やっぱり。……えっと、牛1頭と、羊1頭と、鶏1匹に……犬も1匹欲しいです」
「牛と羊と鶏と犬……モオとメエとコッコとウォンですね。わかりました」
「えっ? ……ああ、その世界ではそういう名前なんですね」
鳴き声がそのまま名前になったのかな?
でも何故に犬だけウォン?
ワンじゃないのかな……?
「あの、犬の鳴き声って?」
「ウォンですね」
「……へえ……」
言い切られました。
「畑と動物についてのスキルは、何かご所望はございますか?」
「あ。えっと……そうですね、動物に好かれやすいってスキル、欲しいです。卵取ったりとか、羊毛刈ったりする時になるべく嫌がられないようにしたいので」
「わかりました。……畑に関しては?」
「畑は……大丈夫です。成長促進とかの薬は、錬金術で作れ……ます、よね?」
「ええ」
「あ、良かった。なら、大丈夫です」
「わかりました。……他に、何かご希望は?」
「ないです」
「……そうですか。では、後ほどラザルドールの地図と、役に立つ図鑑を各種届けましょう。……それから、収穫した作物や卵、牛乳、それに薬等を保管する倉庫を家に併設しておきます。劣化防止の作用付きで」
「えっ! わぁ、それ助かります! ありがとうございます!」
「それから、これを差し上げます」
え?
差し上げます……って、ラクロさん、何も持ってない手を差し出されても……。
ハッ!?
もしや、ラクロさん自身をプレゼントって事!?
いいいやそんな、まさか……って、あれ、ラクロさんの手が光った……。
あ、何か持ってる……便箋と、封筒?
「魔法の便箋と封筒です。何かあれば、これに記して封筒に入れて下さい。封筒に私の名を書けば私の元に届きます」
「え、そうなんですか。便利だなぁ」
「……最後に。華原さん。スキルは永久に使えますが、私が手助けをするのは、貴女の生活が安定するまでです。その後は、ご自分の力だけで生きていって戴かなければなりません。それを、お忘れなきように」
「あ、はい。安定したなら、その後はきっと大丈夫でしょうから、問題ないです。あ、でも、手助けを終わりにする時は一言言って下さいね?いつの間にか何の音沙汰もなく関わりが切れてたら、悲しいですから」
「ええ、わかりました。……では華原さん、目を閉じて下さい。ラザルドールへお送りします」
「あ、はい。お願いします」
私は言われた通り目を閉じた。
するとすぐに心地良い浮遊感が、私を包んだ。