動物を買おう! 2
「さて、どの動物を買う?」
「え?」
お昼ご飯を食べ終わり、動物屋の店内へ戻った途端、アーガイルさんがそう尋ねてきた。
突然だった事もあり、私は首を傾げた。
そんな私を見て、アーガイルさんも首を傾げる。
「ん? 今日は動物を買いに来たんだろう?」
「あ、はい。でも、今はまだ、営業時間外、なんですよね?」
お昼休憩をとる為に、1時間お店を閉めていると、さっきアージュは言っていた。
お昼ご飯は食べ終わったけど、営業再開まで、まだ少しだけ時間がある。
「ああ、そういう事か。はは、構わないよ。店を開ければ、途端にまた忙しくなるから、ゆっくりクレハちゃんにつき合えなくなるからな。それに、クレハちゃん、さっきは人が多すぎて動物を見る事も出来なかっただろう?」
「あ……はい」
「またああなるから、今のうちに見て、買ってしまいなさい」
「わ、わかりました。ありがとうございます、アーガイルさん」
「どういたしまして。それで? どの動物を買うんだい?」
「あ、ええと。モオとメエを一頭ずつ。それから……」
あのウサギみたいな子とアルパカみたいな子は、なんていう動物なんだろう?
私は店内を歩いて、まずウサギみたいな子がいるガラスケースの前へ行く。
「この……ラピ、を一匹と、あっちの……えっと、フエ?を一頭です」
「え、そんなにかい? セール中とはいえ、それだけ買うとなると結構いくよ?」
「あ、はい。でも大丈夫です、お金はあります」
「はあ……そうか。ならいいが……う~ん」
アーガイルさんは顎に手をあて、何かを考えるしぐさをした。
「アーガイルさん? どうか、しました?」
「あ、ああ……いや。……聞いていいかな。クレハちゃんが、錬金術士見習いだというのは前に聞いたが……お兄さんは、何をしている人なんだい?」
「……お兄さん……?」
えっと……誰の事だろう?
「ん……? ……お兄さん、だったよな? ほら、初めて店に来た時……ウォンを買った時に一緒にいたろう?」
「……あ!」
ラクロさんの事だ!
そういえば、兄という設定だった!
「そ、そうです! お兄ちゃんです! ……お兄ちゃんは、えっと……」
ラクロさんの職業……困った、何て言おう……?
「……ま、魔法使いです!」
「魔法使い?」
「はい!」
……ラクロさんは、魔法が使えるんだから、これはきっと嘘じゃない。
……嘘じゃ……ない、よね?
……うう、ごめんなさい、アーガイルさん。
「そうか……魔法使いか。……なら、相当腕がいいんだろうなぁ」
「え?」
「だって、それだけの動物が買えるだけのお金を、ぽんとクレハちゃんに渡したんだろう? ならお兄さんは、高額報酬が出る難しいギルド仕事をこなせる、凄腕の魔法使いなんだろうと思ってな」
「……あ……」
そっか……親代わりに養ってる小さな妹に、あっさり大金を持たせる程余裕のある、高給取りだと、そう思われたんだ。
……いや……う~ん……なんか本当、ごめんなさいアーガイルさん……。
全ては設定なんです……。
「……。……まあ、いい。……あまり人様の事を詮索するのは良くないしな! クレハちゃんがいい子なんだから、育ててるお兄さんもきっと悪い人じゃないだろう!」
「え……?」
「モオとメエとラピとフエだな? どの子がいい?」
「あ、はい、えっと~……」
私はラピのいるガラスケースを覗きこんだ。
ガラスケースの中には、薄いピンクの毛のラピと、淡いオレンジの毛のラピが数匹ずついる。
うん、どの子も可愛い。
「ああ、これ、迷うなぁ……」
じっとガラスケースを見ていると、薄いピンクの毛をした子と目が合った。
するとその子はピョンピョンと跳びはねながら、私の目の前に来て、私をじっと見つめた。
「え……」
「おや。どうやらこの子は、クレハちゃんを気に入ったかな?」
「え、私を?」
薄いピンクの毛のラピは、私を見つめたまま動かない。
「……。……あの、この子にします」
「はは、そうだな! これだけじっとアピールされたらそうなるよな! 良かったなラピ、お前さんにしてくれるらしいぞ!」
アーガイルさんはそう言って笑いながらガラスケースを開けた。
すると薄いピンクの毛のラピはすぐにガラスケースから飛び出して来て、私の足に頭を擦り寄せた。
うわぁ、可愛い……!!
「おお……熱烈だな」
思いがけないラピの行動に、さすがのアーガイルさんも苦笑いを浮かべて言った。
「次は、フエかな」
私はラピを抱き上げ、フエのいるガラスケースに移動した。
ガラスケースの中には、白、茶色、そして黒いフエがいた。
「ああ、この子達も可愛い……」
でも、フエはやっぱり白い子かな。
またお金が貯まったら、茶色の子と黒い子も買いたいけど。
あと、淡いオレンジのラピも。
……ああでも、あんまり動物増やすと一人じゃ世話が大変かなぁ。
畑もあるし……う~ん。
……まあ、これに関してはゆっくり考えよう。
「アーガイルさん、白い子をお願いします」
「ああ、わかった」
あとは、モオとメエ。
この子達に関しては、色も模様も、どの子も大差ない。
地球には、牛も羊もそして鶏も、ジャージーとかサフォークとかウコッケイとかもいたけど、ラザルドールではモオもメエもコッコも一種だけらしい。
前にそうアージュが教えてくれた。
ただ、『よーーーく見ると、どの子も少ぉしだけ違うんだよ!』と力説してたっけ。
「クレハ、お待たせ! いい子いた?」
モオのガラスケースに移動すると、アージュとジュジュさんが店にやって来た。
二人は食器の後片付けをしていたのだ。
ご馳走になったのだから私も手伝おうとしたけど、ジュジュさんに遠慮され、アーガイルさんに店に連れ出されたのだった。
「うん。あとはモオとメエだけだよ」
「あっ、モオとメエも買うの? なら、お薦めの子がいるよ!」
「お薦め?」
「うん! えっと、モオはね、あの子! それからメエは、えっと……あ、あの子!」
私はアージュが指差す子を見た。
……えっと……うん、他の子との違いが、わからない……。
「……そ、そっか。アージュのお薦めなら、その子達にしようかな」
「うん、そうしなよ! この子達、絶対お薦めだから!」
「うん。アーガイルさん、お願いします」
「よし、わかった」
アーガイルさんはガラスケースを開けて、モオとメエを出した。
「あの、それと。一度に全員は運べないので、何往復かしますから、その間、預かって戴いていいですか?」
「ああ、そうだな。わかった。売約済みのガラスケースに入れておくよ」
「ありがとうございます。お願いします」
その後、代金を支払った私は動物屋を出て、一度街門をくぐり、そのすぐ横で魔法のじゅうたんを広げ、買った荷物と動物を乗せ、家へ向かって出発する。
わざわざ街門をくぐるのは、身分証を提示して街の出入りを記録して貰う為だ。
2度目に街へ来た、魔法のじゅうたんを初めて使ったあの日、街門を通らず広場に降りたら、あの騎士のお兄さん、セイルさんが走って来て、やんわり怒られたという出来事が、実はある。
街の出入りの記録は、必須らしい。
平謝りしたのは、苦い記憶だった。




