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あの世と天使

見上げると、白い服に白いズボンを履いた男性が二人いた。

背中にある白い羽をバサバサとはためかせ、飛んでいる。

もう一度言おう。

飛んでいる。

ど、どうして、どうやって……って、いや、待って。

そういえばこれは夢なんだった。

……白い羽を生やして飛ぶ男性が出てくる夢……。

どうした私、小説の読みすぎか。

それともゲームのやりすぎか?

いや、もしかしたら、疲れすぎて現実逃避よろしくこんな夢見てるのかも……?

そんな事を考えながら呆然と男性達を見上げていると、彼らは私のすぐ近くに降り立った。


「あの、本当にお待たせしてすみませんでした! ……えっと、短いものでしたが、堅実な人生、お疲れ様でした! これから貴女を、天国へお連れしますね!」


にこ、と笑って、男性の一人、癖っ毛のある茶色の髪の男性が言った。

…………天国?


「何、それ……?」


私はそう呟いたが、途端に、自らの身に何が起こったのかを思い出した。

そうだ……私、仕事からの帰り道、交差点で信号待ちしてたら、車が歩道に突っ込んできて、それで……。


「……死んだの? 私」

「……はい。……ですが! 天国は穏やかないい所です! 貴女は地味ながらもずっと一生懸命堅実に生きて来られた。その為、天国へ行く事が認められたんですよ! おめでとうございます!」


え……?


「ちょっと……おめでとうって、そんな……死んだのに言われても……」


にこにこと微笑みながら明るく言い放つ男性に、私は力なくそう言った。

すると男性は口に手を当て、慌てたように言葉を繋ぐ。


「あっ、そ、そうですよね! ごめんなさい! 僕、もっとよく考えてから喋れって先輩からもよく叱られ……痛っ!」


男性は背後にいた青い髪の男性にペシンと頭をはたかれた。

青い髪の男性は一歩前に出ると、口を開く。


「失礼しました。突然の事に困惑されるでしょうが、残念ながら貴女は亡くなりました。貴女には、来世への転生の準備が整うまで、天国にて魂の安息を得る事が認められました。どうか私達と共に、天国へおいで下さい。佐原暮羽(さはらくれは)さん」

「あ……。は……い?」


……え、待って、今この人何て言った?

さはらくれは?

…………誰、それ?


「……あの? 今、何て?」


私は恐る恐る聞き返した。


「はい? ですから、私達と共に天国へおいで下さいと。佐原暮羽さん」


……ああ、やっぱり、聞き間違いじゃない。

さはらくれは、って言ってる……この人。

うわ、なんか無性に嫌な予感がする……。


「あのぅ……私、華原、紅葉、なんですけど……?」


そう告げると、青い髪の男性は大きく目を見開いた。

次いで、手にしていたファイルを広げめくりだす。


「え? ……ええ……!?」


茶色の髪の男性はそう声を上げ、オロオロとし始めた。


「……華原紅葉。事故に遭うも一命はとりとめる。入院生活のち、通常生活に戻る……」


青い髪の男性は、めくる手を止めると、そう呟いた。


「へっ!?」


それを聞いて、茶色の髪の男性は驚愕の表情を浮かべ青い髪の男性を見る。


「……ルーク……!!」


青い髪の男性はファイルを見たまま、地を這うような低い声を出し、ワナワナと震えだした。

ファイルの端が、クニャリと歪む。


「すっ、すみません! 先輩!!」


茶色の髪の男性は直ぐ様勢いよく頭を下げた。

おお、きっかり90度だ。

しかし今は私の事が先だろう。

怒ったり謝ったりは、それを解決させた後でやって欲しい。


「……あの~。つまり、人違いなんですよね? 私、帰らせてくれません?」


私がそう声をかけると、二人はすぐに私を見てーーー土下座した。


その後、茶色の髪の男性からあたふたと説明された内容はこうだ。

私は、茶色の髪の男性が間違えて、ここ、あの世に招いた。

その時点で、私の死は確定したらしい。

その代わり、本来死ぬはずだった佐原暮羽という女性が、一命をとりとめたらしい。

つまり、私とその人の運命は入れ代わってしまったらしい。


「す、すみません! 本当にすみません! 僕、まだ半人前の天使で……! 本当に、すみませんっ!!」


茶色の髪の男性は地面の白いふわふわに頭を擦り付け、ひたすら謝っている。

私は口元に笑みを作ると、ゆらりと茶色の髪の男性の前に立った。


「ねぇ顔を上げて? それから、立って?」

「え……? ゆ、許してくれるんですか……?」


茶色の髪の男性は泣きべそをかき、何とも情けない顔をしながら、ゆっくりと立ち上がった。

……許す? 許すかぁ……うん、それはもちろん……。

私は、ガッ、と茶色の髪の男性の胸ぐらを掴んだ。


「……ふざけんな~!! 人違いで死ぬとか、何それ!! 冗談じゃないよ!! この馬鹿天使!! ドジ!! マヌケ!! 何が許してくれるんですか?よ!! あんた責任取りなさいよ!! 私結婚すらまだだったのよ!? 全部これからだったのに……私の人生返しなさいよ~!!」


私はそう叫びながら、茶色の髪の……いや、もう馬鹿天使でいい、こいつはそれで十分よ!!

馬鹿天使を力一杯揺さぶった。


「うっ、あっ、あああの、おっ、落ち着…………う、うわあああんごめんなさいぃぃ~~~!!!」


がくがくと揺さぶられると、馬鹿天使は遂に泣き出した。


「ちょっと何泣いてんの!? 泣きたいのはこっちよ!! 馬鹿天使!!」

「……華原紅葉さん」


私が馬鹿天使を罵っていると、それまで黙っていた青い髪の男性が口を開いた。


「念話にて神様に事の次第を報告しましたら、今返答がございました。貴女には、特別に甦る事が認められました」

「えっ、本当!?」


青い髪の男性の言葉に、私は馬鹿天使の胸ぐらから手を離した。


「はい。……ですが、先ほどお話した通り、すでに貴女の死は確定しています。これは覆せません。よって、ルーク……彼が管理するいずれかの世界から、新たに選んで戴く事になります。失態の責任と貴女へのお詫びとして、貴女に彼の加護をつけますので」

「新たに選ぶ? ……それって、転生って事?」

「いいえ。転生とは違います。赤子からのやり直しではありませんから。……もっとも、甦る際に、少し貴女の時間を巻き戻す事にはなりますが。今の年齢のまま、新たに肉体を得るという事は無理がありますので……」

「時間を巻き戻す? ……えっ、若返れるの!? どのくらい!?」

「一桁ほどになります」

「一桁? ……って、九歳!? うわぁ、人生やり直せるじゃない! わかったわ、それでい……って、良くない! このドジな馬鹿天使の加護なんて怖いからいらない!! どうしても加護つけるなら、この馬鹿天使じゃなくて……貴方には悪いけど、貴方の加護にして!!」

「せ、先輩の!? そんな……! あのっ、僕頑張りますから!! 僕の失敗なのに、先輩の加護をつけるだなんてそんな事……!!」

「あんたのは嫌!! 断固お断り!!」

「そんなあ!!」

「……華原紅葉さん。私の加護をつけるなら、地球には甦れませんよ。私の管理する世界に、地球は含まれませんので。それでもよろしいですか?」

「せっ、先輩!?」

「異世界って事ね。いいですよ。……むしろそのほうが、変に元の生に未練引きずらなくて済みそうだし」

「……わかりました。ではそのように致しましょう。……ルーク、お前は神様の元へ行け。あとは私と華原紅葉さんとで今後の事を話す」

「先輩……。すみません……。……失礼します、華原紅葉さん。……本当に、申し訳ありませんでした……」


馬鹿天使はそう言って、もう一度私に深々と頭を下げ、肩を落としながら飛び去って行った。

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