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売買契約 1

今日も元気に、ジョウロを使って畑に水を撒く。


「あ、お水なくなった。コタ、入れてきて」

「ウォン!」


ジョウロを差し出すと、コタはジョウロをくわえ、水道まで走っていく。

ジョウロを水道の下に置くと、手を挙げて水道の魔石に触れ、水を出す。

水が溢れるくらいジョウロに水を入れると、再びくわえ、今度は水をこぼさぬよう、ゆっくり歩いて戻って来る。

私の前まで来ると、ジョウロを地面に置く。

そして一言。


「ウォン!」


と鳴いて胸を張る。


「うん、ありがとうコタ。助かったよ」

「ウォン!」


私はコタにお礼を言ってジョウロを手に取り、水を撒く。

うちに来て以来、コタは毎日私の後をついて回り、いつの間にか私のする事を覚え、手伝うようになった。

最初は、動物のお世話道具だった。

私は動物小屋へ行くとまず餌をあげ、次にブラシがけして、モモの乳を搾り、たまにメメの毛を刈る。

コタはその順番を覚え、私が餌をあげている間にブラシをくわえて持ってきて、ブラシをかけている間に牛乳を入れる容器を持ってきて、乳を搾っている間にブラシをくわえて片づけに行く。

私が『コタ、今日はメメの毛も刈るよ』と言うと、ブラシを片づけたついでに毛刈りばさみも持ってくる。

そんな感じで始まったコタのお手伝いが、魔石に触れて水道から水を出しジョウロに入れる、という事にまで達した時は、コタは本当に犬……じゃなかった、ウォンだろうかと、ちょっと疑った。


「よし、水やりおしまい! コタ、今日は街へ行くよ。コタも行く?」

「ウォン!」


早いもので、初めて街へ行った日から、すでに2ヶ月が経過している。

あれから私はだいたい半月に一回の割合で、街へ行っている。

理由はひとつ、アージュと遊ぶ為だ。

私の初めての友達となったアージュは、私より二つ歳上の10歳。

私の年齢を知った時、アージュの父親、アーガイルさんが、『アージュのほうがお姉さんなんだな!』と言ったせいか、『アージュはお姉さんだから!』と、毎回街の色々な場所を案内してくれる。

おかげで街の地理には詳しくなれた。

きっと今日も、どこかを案内してくれるのだろう。

あの日ギルドで買った材料で作った魔法のじゅうたんに、この半月に作ったアイテムが詰まった籠を乗せると、コタを抱っこして私も乗る。


「よぅし、出発!」


そう言うと、魔法のじゅうたんは浮かび上がり、動き出す。

馬車と同じか、ほんの少し速いかくらいのスピードで動く魔法のじゅうたんは、家と街を一直線に往復できるので、移動時間が更に短縮でき、とても重宝している。







街に着くと、まずギルドへ行った。

売買カウンターで作ったアイテムを売り、減った材料を買う。

私が売るアイテムの中に依頼品があると、売買カウンターのおじさんが依頼品として引き取ってくれて、ちょっと多めにお金が貰える。

そうそう、この依頼。

ラクロさんに聞いたところ、錬金術士が作るような品を依頼するのは、大半が貴族なんだそうだ。

あの騎士のお兄さんは、相手が貴族だから、私が依頼を受けるのを止めようとしたんだろう。

私は子供だ。

もし依頼の品の出来に不満が出たら、そしてそれを子供が作ったと知ったら。

怒って、貴族の権力を奮って罰を与える、なんて事もあるかもしれない。

お兄さんはきっと、それを心配してくれたんだと思う。

けど2回目に街に行った時、その話をおじさんにしたら、『嬢ちゃんの腕なら大丈夫だ!』と豪快に笑って太鼓判を押されたから、それ以降は気にしない事にした。

貴族の依頼を管理して、依頼品として納品された物を厳しくチェックしてるらしいおじさんの目を信じるよ、うん。


「今日はこれで全部だな? なら、この美容液とトゥトゥの織物は依頼品として引き取るぜ。他は、通常買い取りな」

「はい、お願いします」

「おう。……で、だな、嬢ちゃん。ちょっと頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

「はい? 内容によりますけど……何でしょう?」

「いや、そんなに難しい事じゃねえんだが。この美容液とトゥトゥの織物をだな、依頼主に届けて欲しいんだ」

「依頼主に? ……って、貴族にですか!? 届けてって、まさか家まで!?」

「ああ、そのまさかだ。大丈夫だ、ギルドから依頼品を届けに来たと言えば問題なく通されるから。依頼主に会って、渡してくれるだけでいい。なっ? 頼むぜ嬢ちゃん」

「え~……。……う~ん、まあ、届けるだけなら……わかりました」

「お、そうか! ありがとうな嬢ちゃん! じゃ、これが地図だ、よろしくな!」

「はい。それじゃあ、失礼します」

「おう! ……あとは、嬢ちゃんの判断に任せるぜ?」

「え? ……おじさん? 今何か言いました?」

「ん? いや? ……またな、嬢ちゃん」

「? ……はい、また」


おかしいな……何か、小声で言われた気がしたんだけど……気のせい?

私は首を傾げながら、ギルドを後にした。

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