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街へ行こう! 5

店主さんの説明を聞きながら、順にガラスケースの前を移動して行く。

時折、女の子が店主さんより早く説明する。

将来有望な跡取り娘のようだ。

ああ、それにしても本当にどの子も可愛い。

どうしようかなぁ……。

私は絶え間なく顔を動かし、ガラスケースの中のウォン達を見る。

しかし、次のガラスケースを見た瞬間、私の顔の動きはピタリと止まった。

な……っ、何この子、めちゃめちゃ可愛い!!


「おや、その子が気に入ったかい? その子はマーニラっていう種の子だよ」


私の動きが止まったのを見て、店主さんがガラスケースを開けた。

ガラスケースからマーニラを出し、私に差し出す。


「ほら、抱っこしてごらん」

「え、いいんですか?」

「ああ」


店主さんが頷いたのを見て、私はその子をそっと受け取り、腕の中に抱く。

うわぁ……ふわっふわだぁ。


「マーニラは、小型ウォンだな。丸みを帯びた三角形の耳と、夜空のような深い青い毛、まあるいつぶらな瞳が特徴だ。かなり人気が高い。……ただ、この子は毛色が背中とお腹の部分で何故か違うから、ずいぶん長く売れ残っててな」

「え? こんなに可愛いのに!?」

「マーニラは、普通全身青い体毛だからな。だから最初、この子は珍しいから、すぐに売れるかと思ったんだが……何だかマーニラらしくない、と敬遠されてなぁ」

「全身青い体毛が普通……」


ならこの子は、確かに珍しいんだろう。

鼻の頭から目の上、耳、背中に尻尾と足までは、青い毛。

けど目と鼻の下から口、胸、お腹までが、白い毛になっている。

でも、それも含めて。


「……凄く可愛いと、思うけどなぁ」

「そうか。……なら、お嬢ちゃんがその子を買ってくれると助かるんだが。色の違いを気にせず可愛いと言ってくれる人に飼われたほうが、この子も幸せだしな」

「あ……」


……どうしよう。

私はどういうウォンがいいかを決めて帰って、ラクロさんからウォンを貰う為にここに来た。

でも私……この子がいい。

この体毛も含めて、凄く可愛いと思う。

この色が珍しいなら、ここまで可愛い子はこの子しかいないだろう。

ならやっぱり、この子がいいなぁ。


「あの……この子、おいくらですか?」

「ああ、10000マニーだよ。お嬢ちゃんがご両親を説得して絶対買ってくれるって言うなら、3日だけ販売ケースには出さないでおくが、どうする?」

「10000マニー……」


……それなら、買える。

買い物や宿代は、たくさんあった通常買い取りの品を売ったお金だけで足りた。

だから依頼品として売って手に入れたあの銀貨がまだ、そっくり残ってる。

帰りの馬車代もかかるし、この子買っちゃうときっと家に帰った時には、所持金は限りなく0に近くなると、思う。

でも、家に帰りさえすれば、またアイテム作れるから、それ売ればまたお金は手に入る。

……よし、買おう!

ラクロさんには事情を話して、ウォンはいいって、断ろう。

マーニラという種じゃなく、この子が欲しくなったんだから、仕方ない。


「あのっ! この子くださ」

「クレハ、ここにいたのか」

「えっ?」


店主さんを見上げ、買い取りを伝えようとした所で、突然名前を呼ばれた。

振り返ると、なんとそこには。


「……え。ええ!? ラふがっ」


ラクロさん、と呼ぼうとしたら、何故かラクロさんが腕を伸ばして口を塞いだ。


「探したぞ。そろそろ帰ろう。もうすぐ馬車が出る時間だ」


え、馬車?

あっ、そっか、しまった。

発車時刻確認してなかった。

もうすぐ出るなら、急がないと。

私はラクロさんの手を口から外した。


「あの、この子ください! 買って帰ります!」

「……えっ? ……買って帰る、って。いや、お嬢ちゃん? ご両親はいいって言ってくれてるのかい? ご両親の許可を得ずに買うのは……それに、お金はあるのかい? 10000マニーだよ?」

「大丈夫です! ありま」

「ああ、ご心配なく。俺がこの子の親代わりなんです。……クレハ、このウォンが欲しいんだな? なら約束通り、俺が買おう」

「えっ?」

「10000マニーですね? どうぞ、お受け取りを」


そう言って、ラクロさんは銀貨を1枚店主さんに差し出した。


「あ……そ、そうなんですか? なら、はい。お買い上げ、ありがとうございます」


店主さんはラクロさんと私を交互に見たあと、ラクロさんから代金を受け取った。


「クレハ、これでその子はクレハの弟だぞ」

「そうですね。良かったなお嬢ちゃん! 毎度あり! 可愛がってやってくれな!」

「あ、はい。……それじゃ、ラ……お、お兄ちゃん? 行きま……行こっか!」


どうやらラクロさんは今、私の親代わりの兄、という設定のようなので、話し方はこれでいいはず。


「ああ」

「あっ、待ってクレハちゃん!」

「え?」


ラクロさんと一緒に出口に向かおうとしたら、女の子に声をかけられた。


「私、アージュっていうの! 良かったらまた来てね! 今度は一緒に遊ぼうよ!」

「え。……あ……! う、うん! あ、私、クレハ! よろしくね!」

「うん、よろしく!」

「へえ、友達ができたのか。良かったなクレハ」

「はい!」


どうやら無事、友達をGETできたみたい!

これで街に来た目的は無事全部達成だ!

やったね!







「さて、華原さん。そのウォンは私が預かります」

「え?」


動物屋を出ると、ラクロさんは私の腕にいるウォンを取り上げた。

あ、口調が元に戻ってる。


「馬車は基本、動物連れは嫌がられます。大人しい小型動物なら、断られはしませんが…このウォンは、私が貴女の家に送っておきます」

「あ、なるほど。わかりました。お願いします」

「はい」

「それから……ありがとうございました、ラクロさん。わざわざ来て下さるなんて、思いませんでした」

「いえ、ウォンについては、約束ですから。……手配の為に、動物屋に着いただろう貴女の様子を見る事にして正解でした。まさか、ご自分で購入しようとなさるとは、少々予想外でした」

「あ……ごめんなさい。でも、どうしてもその子が良かったから」

「構いませんが……あの店主は3日は待つと言っていたのですから、買うという確約だけして帰り、私にその旨を知らせて下されば、今と同じ結果になったのですよ?」

「……あっ。……て、え? あのっ、もしかして、モオとかメエとかコッコとかも、ラクロさんが買ったんですか!?」

「……何を言っているんです、当然でしょう?」


え……!

それって、私、ラクロさんにとんでもない散財させてたって事だよ!?

だってあの動物屋では、モオもメエもコッコも、ウォンより高い値段ついてたよ!?


「ご、ごめんなさい! ラクロさん、貯金大丈夫ですか……!?」

「……は?」


慌ててそう言うと、ラクロさんはきょとんとした。

え、何その顔……?


「……ぶっ! ははっ!」

「へ?」


え、今度は笑いだしたよ?

何で?

あ、でも、笑うラクロさんて初めて見たかも。


「ははは……っ。……し、失礼しました。ですが、大丈夫ですよ。これは約束事項ですし、貴女が気にする必要はありません」

「え、でも」

「それに。私はこれでも上級天使なので、人間で言うところの、高給取りなのですよ。かなりのね」

「えっ。……あ、そうなんですか」

「ええ。ですから、貯金……っぷ。……失礼。……貯金……は、大丈夫です」

「はあ……」


……大丈夫ならいいけど、それを肩を震わせて告げるのはどうしてですか?

「……さて、そろそろ馬車待合所へ行って下さい。本当に馬車が出てしまいます」

「あっ、はい。……それじゃ、ウォン、お願いします」

「はい。……ああそれと、ルークですが。手紙に書いた通りシメてはおきましたが、貴女が許せないと判断したなら、更にシメて構いませんから」

「……へ?」

「それでは家への道中、お気をつけて。失礼します」

「え、ちょっ……ラクロさん!?」


私は慌てて呼び止めたが、ラクロさんの姿は消えてしまった。

……ど、どういう事?

私が許せないと判断したら、あの馬鹿天使を更にシメて構わない?

ほ、本当に、何したの、あの馬鹿天使?


「……家……家に、帰ろう。一刻も早く」


何だか、物凄く嫌な予感がする。

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