街へ行こう! 4
宿の人に動物屋の場所を聞き、宿を出た。
動物屋は街の中央よりわずかに東側、市場の近くにあるらしい。
それなら、市場も覗いてみたいな。
家へは、昼過ぎくらいに戻れればいいしね。
お金もあるし、帰りは馬車を使えるから、来た時よりはずっと早いだろうし。
そんな事を考えながら大通りを歩いていると、前方にふと、見知った緑色の髪の少女が見えた。
あれは……!
「リィンさん! おはようございます!」
「え? ……あっ、クレハ! おはよう」
駆け寄りながら挨拶した私に、リィンさんは笑顔で挨拶を返してくれた。
うん、リィンさん、笑顔も可愛いです。
「リィンさん、お買い物ですか? もしかして、市場行きます?」
「ううん、買い物はもう終わったの」
「え、もうですか? だってお店、ちょうど営業が始まったくらいの時間ですよね?」
大通りに並ぶ店を見れば、開店したものの、商品の陳列など、店内の準備が追いついていないような状況がちらほら見てとれる。
「うん、一般のお店はね? でもギルドなら、一日中営業してるのよ。夜活動してる冒険者もいるから」
「あ、なるほど。……急ぎで必要な品だったんですか?」
「うん、まあね。この後、この街を出るから」
「……え?」
街を……出る?
「お父さんがね、昨夜ギルドの酒場で何かいい情報を仕入れたらしいの。今度は北のほうに行くんだって。どんな冒険になるか楽しみだな」
「北……」
「そういう訳だから、知り合ったばかりだけど、これでお別れだよ。クレハ、いい冒険者になってね。もちろん、私のほうがよりいい冒険者になるけど。じゃあ、元気でね!」
そう言って、リィンさんは手を振って歩き出した。
「あ……っ! ……り、リィンさんも!元気で……!!」
私はなんとかそれだけを口にした。
リィンさんは笑顔で頷いて、その姿を人波の中に消した。
……そっか。
冒険者だと、しばらくはひとつの街を拠点に活動するけど、そのうちに、別の街に移っちゃうんだ……。
つまり、冒険者の子と友達になっても、いずれ会えなくなる。
それは……嫌だな。
そんなの寂しいよ……。
……友達を作るなら、冒険者以外の子に、すべきなんだ。
どこかにいい子、いないかな……。
私は肩を落とし、とぼとぼと歩き出した。
店内から動物の鳴き声が聞こえ、顔を上げると、動物屋、と書かれた看板が目に入る。
あれ……いつのまにか動物屋の前まで来てる。
あ、市場、通りすぎちゃった……。
……ああ、でも、いいや。
何だか色々見て回る気がおきないし、今度にしよう。
今日は動物屋だけ見て、帰ろう。
「ねぇ、君、どうしたの? 大丈夫?」
「え……?」
突然横からかけられた声に、私は見上げていた看板から隣に視線を落とした。
するとそこに、何故か心配そうに私を見ている女の子がいた。
「何か悲しい事があったの? 泣きそうな顔、してるよ?」
「え……」
泣きそうな顔?
……私、今、そんな顔をしているように見えるんだ。
そういえば、すれ違う人がたまに、私を見て心配そうに顔を歪めていた気がする……。
……ああ、駄目だ、しっかりしなきゃ!
最初の友達計画が失敗してショック受けたからって、見知らぬ人達に心配されるほど落ち込んでどうするの!
大丈夫、次はきっとうまくいく……はずっ!
「ねぇ、大丈夫?」
「あっ」
いけない、わざわざ声までかけてくれた子がいたんだった。
「ごめんなさい。大丈夫です。……ちょっと、ショックな事があっただけなんです」
「ショックな事? ……そう、なんだ? ……あっ、なら、動物見ていかない!?」
「え?」
「ここ、動物屋なの! 私ここの娘なの! 動物はいいよ、可愛いし、賢いし、可愛いし、癒されるよ! きっとそのショックな事も吹き飛んじゃうよ!」
え、今、可愛いを2回言いましたよ?
これはあれですか、大事な事だから2回言ったんですか?
「ほらほら、行こう? 絶対癒されるから!」
女の子はそう言ってグイグイと私の腕を引っ張った。
あれ、もしかしてこれ、お客の呼び込みに切り替わってない?
微妙に無意識っぽいけど……。
……まあ、最初から動物屋に来るつもりだったんだから、いいけどね。
私は腕を引かれるまま、中に足を踏み入れた。
女の子の言う通り、中は癒しの空間だった。
モオやメエ、コッコを始め、インコみたいな鳥や、ハムスター、ウサギ、アルパカ、ネコみたいな動物達が入ったガラスケースが所狭しと置かれている。
「いらっしゃいませ! ……って、何だ、今日一番のお客様かと思えば、お前かアージュ」
「あ、お父さん!」
お父さん……てことは、この人がこの動物屋の店主さんか。
二人とも金髪に青い瞳で、並んで立つと一目で親子だとわかる。
「ん? アージュ、この子は? お友達かい? ……見たことない子だな?」
店主さんが私に気づき、わずかに首を傾げた。
「お店の前で会ったの!」
「店の前で? ……友達じゃないのかい?」
「ううん、初めて会った子」
「あ、あのっ、私、ウォンを見に来たんです! ……ええと、ウォン、飼いたいなって思ってて。どういう子がいいかなって、思って」
……見るだけで、買うわけじゃないけど……。
「ああ、何だそうか。わかった。おいで、ウォンはこっちだよ。気に入った子がいたら、是非お父さんとお母さんを説得して、買いに来てくれな?」
「あっ、はい!」
よ、良かった……お父さんとお母さんを説得して、って事は、見るだけで済ませられそう。
……あ、何か少し、罪悪感を感じる。
ごめんなさい……いつか別の動物を買いに来ます。
……あのウサギみたいな子とか、アルパカみたいな子とか。
「さ、この辺の子が全部、ウォンだよ」
「えっ……この辺の子、全部?」
うわ、本当にいっぱいいる……!
これは確かに、どの子がいいか迷いますね、ラクロさん。
……う~ん、どの子にしよう?
皆可愛いなぁ。
「お嬢ちゃん、良かったら、それぞれのウォンの特徴や習性について説明をしようか?」
「あっ! はい、お願いします!」
「よし、わかった」
私は端の子から順に、ウォンについて店主さんに説明を受けた。




