第19話 蛍
窃盗を一緒に働いた仲間の一人と、草むらへと逃げ込んだ。
『ハァハァ…もう、ここまでは追って来ねぇだろ』
一緒に逃げてきた男は、汗を拭う。
『そうだな』
僕は注意深く辺りを見回しながら、答える。
『あれは…?』
僕は、草むらに潜む小さな明かりを見つけた。
『こりゃあ、もしかして…』
男はその明かりに心辺りがあるらしく、そおっとそれに近づくと、両手に包み込んだ。
『おい、その辺に瓶かなんか落ちてないか?』
僕は、暗闇の中を目をこらして見た。すると、足に何かがぶつかり、
「カン」
という音がした。
僕はそれを拾い上げた。それは、透き通った空き瓶だった。
男はその空き瓶に、両手に包んだ物を慎重に中に入れる。そしてすぐに、瓶の口に手で蓋をした。
瓶の中では、黒い虫が光を放ちながら舞っていた。
『珍しいなぁ。これ、絶滅したとかいう虫だぜ』
男は、笑って言う。
『それ、何だ?』
僕には初めて見る虫だった。
『確か…蛍っていうんだ。これ、金になるぞ』
『蛍…』
僕は、じっと蛍という虫を見つめた。
蛍は瓶の中から出ようと必死で飛び回っていたが、光は弱々しくなり始めた。
『逃がしてやれよ』
『はあっ!?』
男は僕の言葉に、信じられないという顔する。
『こんな珍しいもん、ぜってぇ大金積まれるんだぞ!!』
『逃がせ』
僕はたまたま持っていた銃を男のこめかみに向ける。
『おい、おい、そんな物騒なもん向けんなって。なぁ、お前にも分け前やるからさ』
男は銃の代わりに、引き攣った笑みを僕に向ける。
『早く』
僕はそう言うと、銃のハンマーを下ろした。
『わ、わ、わかった!!お前には敵わねぇよ』
男は慌てて、瓶の口から手を離す。蛍はそこから勢いよく、飛び立つ。
『あーあ、何で逃がしちまうかなぁ。ああ、俺の金ぇ』
男は情けない声を出し、蛍が飛び立った夜空へと手を伸ばす。
『ただの気まぐれだよ。普通の奴らが言う、善い事っていうのをしてみただけだよ。……一生に一度してみただけ』
僕は、夜空に煌めく星に負けないくらいに光る蛍に憧れた。
僕にもあんな生き方ができたらと、柄にもなくその時一瞬、淡い夢を見た。
END
読んで頂き誠にありがとうございました。
サイドストーリーとして、「雨音〜クロの真実〜」(短編・その他)があります。よろしければこちらの方も合わせてご拝読頂くとより良いと思います。この作品を気に入って頂いた方は、是非ともよろしくお願いします。