表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛍影  作者: 紅玉
19/20

第18話 別れ

僕は目の前で起きている出来事が信じられないまま、彼女の肩を抱いた。

「お別れが来たの…。ずっと…ずっと、一緒に居たかったのに…」

彼女の肩は震えていた。

「ここまでは、神様に許してもらえなかったんだね」

「ほたる、僕には意味がわからないよ」

僕が恐れていた事が、今、現実になろうとしている。

彼女の肩を抱く僕の手も震え、それを止めようと自然に力が入る。

「クロ。私、クロの事大好き。私はいつでもクロの傍に居るから、クロも私の傍に居てね」

彼女は、僕の唇に軽くキスをした。


…ぽたり。


自然と僕の目から涙が零れ落ちた。

彼女の体が徐々に消えていく。行かないでくれと、僕は必死に彼女を抱きしめた。


でも…

僕に止める力はなかった。


僕は声にならない声で泣いた。とめどもなく溢れ出る涙を抑えようもなく、ひたすら泣き続けた。

こんなに泣いたのは、初めてだった。きっと、最初で最後の事だろう。

僕は、自分を殺した。

彼女への気持ちを恐れるあまり、偽りのない気持ちを隠し、捨てさろうとしたのだ。

犬のクロは自分を犬だと言う事を忘れたように、僕は自分を人間だという事を忘れていた。

人間の持つ感情を恐れ、否定した。

それは自然な事なのに。

普通な事なのに。

後悔してももう、何も戻らない。



 あの後、彼女が大切にしていた古代種、ホタルブクロの植木に小さな蛍の死骸が入っていた。僕はその蛍を見て、全てを悟った。

僕はそのホタルブクロを持って、彼女の家へと向かった。


『小さな小川のある草むらから』


ここは珍しく、透き通った水が流れていた。小川とは呼べない程の頼りない流れの水。だけど、それは力強く精一杯流れていた。

僕はその近くに、蛍の亡きがらとホタルブクロを植えた。

「ありがとう、ほたる」



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ