第13話 自分
「どうしたの?」
僕は銃を下ろし、赤鼻の爺さんの方へ顔を向ける。赤鼻の爺さんが僕の処へ来るなんて珍しい。
「ん?いや、特別用があるって訳じゃねぇんだ。おめぇ、それ、殺しの依頼か?」
赤鼻の爺さんは、手に持っている銃に目線を向けた。
「そうだよ」
「俺はな、おめぇに説教垂れるつもりはねぇんだが…」
赤鼻の爺さんは、懐からいつもの酒の携帯用ボトルを出す。
「人が殺す事がいけねぇとかそんな事は言わねぇ。俺らは汚ねぇ事してかなきゃ生きてけねぇんだ。そんな世界を作ったのは、街の奴らだ。俺らに殺られんのも、自業自得ってやつだ。だけどな…」
赤鼻の爺さんは、酒をぐびりぐびりと喉に通す。
「自分まで殺すなよ…」
ここで普通なら酔っ払いのたわ言だと聞き流すのだが、僕を見据える赤鼻の爺さんの眼には力があった。
「俺の相棒のクロはな、姿を消してから何週間もした時にそいつの噂が流れてきたのよ。あいつ…死んじまったんだ。人間に襲い掛かって、側にいた奴に撃ち殺されちまったんだそうだ」
赤鼻の爺さんは酒のボトルをじっと見つめる。どことなく悲しそうな眼が銀色のボトルに映し出されていた。
「…クロは利口な奴だ。人間を襲うなんて事は普通はしねぇ。何があいつに起きたんだろうな…」
赤鼻の爺さんは、自分の気持ちを流し込むようにぐいっと酒を呑む。
「ただ確かなのは…あいつは自分が犬って事を忘れちまったって事だ」
赤鼻の爺さんはそれだけ言うと、フラフラとしたおぼつかない足取りで去って行った。
自分を殺す…。僕には、理解ができなかった。
僕は銃を再び構え直し、空き缶を撃った。
パーン!!
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