第11話 店主の妻
「あのぅ、仕事貰えません?」
彼女の唐突さに店主は目を点にし、しばらくの間言葉を口にできなかった。
「…ここで働きたいの?」
「はい」
彼女は、こっくりと頷いた。
「あんた、何やってんだい!」
店主に負けてない身体の持ち主の女が現れた。
「いや…あの…」
店主は口ごもり、妻の顔色を見ている。
「ん?何だい。お客さんじゃないか。しっかりしとくれよ!ここは私の店じゃなくて、あんたの店なんだからね!!」
僕らに気付いた店主の妻は、店主に口うるさく言っている。
「いや…客じゃないんだ」
「客じゃないって!?」
妻がヒステリックな声を上げ、店主はどうにも縮まらないその身体を小さくしながら、ビクッと肉の塊を揺らした。
「冷やかしかい?!」
店主の妻は、小さな目を吊り上げて僕らを睨んだ。
「いや…それも違…」
「あ?何だいあんた!もごもご喋ってないで、はっきり喋ったらどうだい!?じれったい人だねぇ!!」
口ごもる夫に妻は、怒鳴りつけるように苛々した様子で言う。
「私、ここで働きたいんです。お仕事貰えませんか?」
ほたるは、夫に助け舟を出した。夫の顔と強張っていた身体は緩み、だらし無い身体はさらにだらし無く緩んだ。
「ふぅーん、あんたウチで働きたいの」
店主の妻は彼女を注意深く眺めながら、彼女の周りをぐるりと回った。そして顎に手を当て、考え込んだ。
「このご時世、花を買っていく人なんか滅多にいなくてね、ウチは破綻寸前なのよ。本当は、人を雇う程の余裕なんてないんだけど…」
店主の妻の小さな唇がさっきとは違ってゆっくりと、ぶっきらぼうな感じだがそれでいていて、優しく言葉を放っていく。