第10話 花屋
「僕らはもう行くよ。すまなかった」
僕がその場から逃げるようにアネゴの横を通り過ぎようとすると、アネゴは僕の腕を掴んだ。
「アンタ、磨けばいい男だと思うのよね。今は、男だって売れんのよ。どう?」
「悪いけど、それだけはごめんだよ」
「あら、意外と純なのねぇ」
と、アネゴはクスリと笑うと、手を離した。
「冗談よ。でも、磨けばお金になるのは本当よ。アタシの目に狂いはないわ」
去っていく僕の後ろ姿に、アネゴは僕に聞こえるように声を張り上げて言った。
「ねぇ…」
ほたるは、進み歩く僕の顔を覗いた。彼女が言いたい事はわかっていた。
「アネゴがやっている仕事は、君にさせられないよ。どういう仕事かなんて、わからなくていい。それよりも、他を探そう」
僕はそう言って、先を歩いた。すると、彼女は後ろからいきなり僕の腕に飛び付き、自分の腕を絡ませてきた。
「うん!」
彼女は何故だか嬉しそうに、頷いた。
彼女が離さないので、僕はそのまま彼女と腕を組んで街を歩いた。
腕を離そうと思えば離せただろう。だけどそうしなかったのは、離したくなかったからかもしれない。
「あ!」
彼女の目に何か止まったらしく、僕から腕を外すと少し先の店へと駆けて行った。
彼女のもとへと行くと、彼女は店の花を眺めていた。今まで花なんてものを気にして見た事がなかった。花なんてものは、金のある奴らがお飾りで買うものだ。
「きれいだね」
彼女は眼を輝かせていた。
「そう?」
花ってもんの何処がいいんだ?ただの雑草と同じだろ。
「いらっしゃい」
腹がてっぷりと出た体格のいい花屋の店主が僕らに声をかけた。