第9話 アネゴ
「あの、お仕事貰えません?」
彼女は、一人の女に声をかけた。無知とは、恐ろしいものだ。
「ん?お嬢ちゃん、仕事が欲しいのかい?どれ?」
束ねた栗色の髪は崩れ、ボサボサの頭。光りのない茶色の瞳には、希望という名のものは決して映し出されないだろう。
露出度の高いドレスからは、歳の割りには白く透き通った肌が故意的に出され、男達を誘っていた。
「そうねぇ…アンタなら、いい金で売れそうだねぇ」
女は彼女の顎を掴み、いろんな角度から彼女の顔を眺めている。
「アネゴ、悪いがこいつにこの仕事をさせるわけにはいかないんだ」
「何だいクロ、アンタ居たのかい」
アネゴは彼女から手を離し、僕の方へと目を向けた。
「この娘、アンタのかい?」
「今のところはね」
アネゴという人は、体を売る女達を自分のもとへ雇い、取り仕切る立場の人だ。
彼女のもとに付けば、一人でやるよりも確実に客を取れるし、アネゴの力は絶大だ。
いろいろとコネもあって、金を払わないで逃げられる事もない。逃げようものなら、もちろん命はない。
そんなアネゴのところに客は来るのかと疑問に思うだろうが、彼女は売れる女しか取り揃えない。彼女はその世界でのやり手なのだ。
「アンタの娘なら、仕方ないね」
とアネゴは少し、不機嫌そうな顔をした。
仕事を探せとは言ったが、流石にこういった類いの仕事はさせられない。「こいつは、僕らの世界をわからないんだ」
「ふん、そんな何処ぞのお嬢様か何かもよくわからない娘とよく一緒に居られるもんだわ。まぁ、アンタも所詮男だって事だね」
アネゴは一度不機嫌になると、なかなか直りにくい。