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アヴァロンヘイムユニバース

置き去り少女は勇者となる~最低ランクだった私は解放された固有スキル『勇者化』の力で最強へと成り上がり、いずれは世界を救う勇者となる~

作者: 遠野紫
掲載日:2026/10/09

 ダンジョン。

 それは突如としてこの世界へと現れ、多くの災厄を振りまいた。


 奥底から湧き出る異形の魔物は人々を襲い、建物を破壊し尽くし、人類の生存圏を大きく奪い取った。

 ただただ蹂躙されるだけの人類に、もはや未来はない……と、誰もがそう思った。


 けれど実際のところ、希望はあったのだ。

 ダンジョンの誕生と共に現れたのは『レベル』と『固有スキル』と言う超常の力を持つ存在。

 それらは類まれなる力を誇り、魔物を退ける存在として人類の守護者となった。


 それだけではない。

 ダンジョンの内部へと潜った彼らは多くの資源や装備を回収することに成功した。

 そのおかげでダンジョンや魔物への対処は遥かに容易となり、それどころか人類の文明は大きく発展することとなった。


 これはまさしく人類による反撃だ。

 無数に湧き出る魔物は討たれ、途方も無い数のダンジョンは日々攻略されている。

 世界は、再び人類のものとなったのである。




 ……と、言うのが数十年前の話。

 人魔大戦とも呼ばれる大戦争の話。

 私が生まれる前の、今となっては記録で見るだけの過去の話。


 なんせダンジョン攻略は今やもう学生ですら行える代物となっているのだから。


 と言うのも、私が通う東京都立探索者学園のようにダンジョン探索を生業とする『探索者』を排出する学校が今では世界中に存在している。

 戦う力を持つのは歴史に語られるような英雄だけでは無いということである。


 ……まあ、その中でも私は落ちこぼれの最底辺なのだけど。

 魔法の才は無く、剣の才もない。

 勿論、斥候として優れているわけでもなければ鑑定みたいな便利な力が使えるわけでもない。


 私の持つ固有スキル『勇者化』はその大層な名前とは裏腹に、一切の力を発揮してはくれないのだ。


 もっとも、固有スキルを持たない人たちと比べれば多少身体能力は高い。

 これは固有スキルを持つ者としての特徴だ。

 魔物と戦うためなのか、能力とは無関係に身体能力が向上することが判明している。


 そこに関してはありがたいと言うべきか、私も例外ではなかったようで一安心と言ったところ。

 これで筋力も一般人以下なのではもう話にならない。


 だがしかし、残念ながらその身体能力の向上も所詮は一般人と比べた際の話でしかなかった。

 レベルが一桁である私のちんけな身体能力など、他の探索者志望の生徒に比べれば雀の涙ほどのそれなのである。


 実際問題、私は最低ランクの魔物と戦うのですら苦労するレベルのへぼへぼ生徒だ。

 実習の時だってほとんど荷物持ちのような扱いだった。

 強そうな魔物と戦えるのはそれこそ属性魔法だとか、剣術だとか、そう言う目に見えて戦いに向いた固有スキル持ちの人たちくらい。


 まあ、そうは言っても戦うだけが探索者の全てじゃないことは分かっている。

 罠探知やら鑑定やら、ダンジョン攻略に必要な固有スキルは他にもたくさんある。

 裏方だって貴重な存在なのだ。


 問題があるとすれば、私にはそう言った裏方の固有スキルすら無いことなのだけど。


 いよいよもってお荷物である。

 荷物持ちがお荷物なのである。

 やれ偽勇者だのお荷物勇者だの、そう言った揶揄いでしかない呼ばれ方にはもう慣れてしまった。


 ……それでも、私は探索者にならなければならない。

 かつて私の命を救ってくれた名も無き探索者のように、私も誰かを助けられる探索者にならなくちゃいけないのだ。

 それがせめてものお礼。直接返せなくとも、これが私に出来る唯一の恩返し。


 ……なんて、そんな大きな夢を持って学園に入学した結果がこれなのだけども。

 もちろん身の丈に合わない夢を持っていることは理解している。

 圧倒的に能力も実力も足りていない。それは自分自身が誰よりも分かっていた。


 だとしても、諦めてしまったらそれで終わりだ。

 努力をやめるのはもうちょっと頑張ってからでいい。

 少なくとも、途中で投げ出したらあとで絶対に後悔するのは分かり切っているから。


 ……でもまあ、せめて固有スキルが力を発揮してくれればなぁ……なんて、今でも思ったり。



 ◆◆◆◆◆◆



 ヤバイ……!

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!


 死ぬ!!


「グルオオオァァァァ!!」


「ひいいぃぃぃぃっ!?」


 後ろから放たれるは圧倒的なまでの威圧感。

 そして絶えず重苦しい足音と、恐怖心を増幅させる雄たけびが聞こえてくる。


 あれは間違いなくオークロード……!

 上位種の中でもかなり凶暴だと言われている魔物!

 追い付かれれば、間違いなく……死ぬ!!


「クソがッ!! どうしてあんな浅い階層に転移トラップがあんだよ!! おい、アニトラ! 魔法で罠探知とかできなかったのかてめぇ!!」


「できるわけないでしょ!! 私の固有スキルは『中級氷魔法』なんだから!! ブラッドの方こそ戦士なんだからちゃんと足元確認しなさいよ!!」


「あーッ! チクショウ!! どうしてこんなことになってんだ!!」


「私が知りたいわよ!!」


 ただでさえ後ろからの圧が凄いのに、前からはパーティメンバーの二人の怒号が聞こえてくる。

 たった今二人が叫んだ通り、私たちは転移トラップによってダンジョンの地下深くの階層へと転移してしまったのである。


 当然、ここは私たちみたいな見習い探索者がどうこうできる場所ではない。

 魔物は凄まじく危険で、凶暴で、残虐だ。

 もちろん罠だって凶悪で狡猾なものが多い。


 こんな恐ろしい場所で生き残れるほど、私たちは強くはなかった。


 ――だからだろうか。

 前の二人が……私に向けて、武器を構えている。


 きっと気のせいだろう。見間違いだろう。

 そう、思いたかった。

 持っている固有スキルに格差はあっても、同じ道を進む仲間でありクラスメイトなんだ。

 だから、決してそのようなことはしないと信じたかった。


 しかし、同時に嫌な想像が脳をよぎってしまう。

 この状況であればもう、それしかないのだから仕方がない。

 彼らの表情は、その目は、既に私のことを仲間だとは思っていなかった。


 確かに私はお荷物で、最底辺で、落ちこぼれだ。

 だけど、落ちこぼれなりに頑張って努力してきたつもりだった。

 

 けれど……それは私の自己満足でしかなかったらしい。

 危険な階層へと放り込まれ、勝ち目のない魔物に追われている今この状況において、彼らにとって私はもう……都合の良い囮でしかないのだ。


「ねえ……嘘、だよね……? だって、私たち仲間で……」


「これも私たちが生き残るためなの。だからお願い、私たちのために……死んで?」


 ……分かってはいた。

 分かってはいたけれど、それでもこうして真正面から言われると……駄目だ、感情がもう、分からなくなっちゃった……。

 あはは……私、どこで間違えたんだろう……。


「冷気よ、我が力となりて敵を凍らせよ……イ・グレイス!!」


 アニトラが放った魔法が私の足を固めた。

 氷漬けになって地面へと固定されてしまった。

 私の力ではもう、ここから動けない。


「お前のことだからそれで充分だとは思うが……俺はまだ死にたくねえんだよ。念のためだ……わ、悪く思うなよ!」


「……え?」


――ザシュッ


 舞う血しぶき。

 それが私の足から出たことに気付いた頃にはもう、私はその場に崩れ落ちていた。


「ぁ゛っ……ぐ……!?」


 遅れてやってくる痛み。

 ああ、痛みには慣れているつもりだったんだけどなぁ……。

 やっぱり、痛いのは……嫌だよぉ……。


「おい、コイツが喰われている間に俺たちは少しでも遠くへ逃げるぞ!!」


「ま、待って……」


「誰が待ってやるもんか……俺は死にたくねえって言ってるだろ!! ハ、ハハ……それに、よかったじゃねえか。落ちこぼれでも死ぬ前に役に立ててさぁ」


「そ、そうよね! 最後に仲間を助けることができたんだから、本望よね! そう言う事だから……ここで少しでも長くあの化け物を足止めしてちょうだいね?」


「ぁ……そ、んな……」


 二人が遠ざかっていく。


「ま……って……」


 出血量が多すぎるのか、声も上手く出せない。

 感覚も少しずつ鈍くなっていく。体に力が入らなくなっていく。

 わずかに聞こえてくる足音と雄たけびも、だんだんと小さくなっていく。

 意識だって、きっともう長くはもたないのだろう。


 あぁ……死ぬんだ、私。

 こんなところで一人寂しく、魔物に食べられて死ぬんだ。

 生きたまま肉を斬り裂かれて……内臓を……引きずり出されて……。


 ……嫌だ。

 怖い。

 死にたくない。


 私まだ……死にたくないよ……。

 やりたいことだって、まだたくさんあったのに……。

 人を助けるどころか、まだ探索者にだってなってないのに……。

 なのにこんなところで終わるだなんて……絶対に、嫌だ……!


 なんで私が死なないといけないの……!?

 私、ずっと頑張って来たのに……!!

 全部、あの二人が……!!


 許さない……絶対に、許さない!!

 動け、動けよ私の体……!

 逃げないと、食べられちゃうんだよ……!!

 あの二人に復讐だって、できなくなっちゃうんだよ……!!


「グルルゥ……」


 聞こえる。

 怒りにも似た雄たけびが。

 すぐ近くにいる。

 今すぐにでも、私を食べようとしている。


 でも、まだ食べられてやるものか……!

 私は……私は……!!

 こんなところでは……まだ、終われない!!


『称号【絶望を乗り越える者】を獲得しました』


 ……え?


『称号【諦めぬ者】を獲得しました』


 ……なに?

 一体、何が起こっているの……?


『固有スキル【勇者化】の発動条件を一部満たしたため、全ステータスが上昇しました』


 ……ッ!?

 あれ、痛くない……?

 それに目も見えるし、耳も聞こえる……?

 それどころか体の奥から力が湧いてくるんだけど……!?


『固有スキル【勇者化】の一部の能力解放条件を満たしたため、【上級剣術】【上級属性魔法】【上級回復魔法】【上級治療魔法】【上級蘇生魔法】を習得しました』


 なになになになに!?

 一体なんなの本当に……!?


 いや、分からないけど……一つだけ分かる!

 今の私は……強い!!

 ので、今の私はこの怪物を蹴散らせることができる……!!


「グルゥッ!!」


――ズドンッ


 オークロードの攻撃が数秒……いや、ほんの一瞬前まで私がいた場所へと振り下ろされた。

 その速さは凄まじく、まさしく上位種特有の常識外れな一発であった。


 でも、生憎と私はもうそこにはいない。


「グルル……」


 どうやら私を見失っているらしい。

 当然だ。私は一瞬にして奴の真上へと跳びあがったのだから。


 そして、この位置であればオークロードの弱点を……無防備な首を、狙い放題!


「はあぁぁぁぁ!!」


 天井を蹴り、奴の首へと全力で飛び込んだ。

 今の私にまともな武器はない。

 けれど、それでも問題はない。


 感覚でわかるのだ。

 己の拳があれば、こんな奴は敵ではないと……!

 今の私の身体能力であれば、全力で拳をぶち込んでやれば私の勝ちだと……!!


 そもそも、首を折れば、大抵の生物は死ぬ!!

 やはり暴力。暴力は全てを解決する!!


――ゴズム゜ッ、ゴシャッ


「グルオォォッ!? グ、グゴゴォ……ガ……」


――ズシンッ


 一瞬の断末魔の後、首が吹き飛ぶのと同時に奴は倒れた。

 それはもう完膚なきまでの、見事なワンパンであった。

 敗北を知りたい。


『オークロードの討伐を確認しました』

『レベルが【48】に上昇しました』

『戦利品として【オークロードの棍棒】を獲得しました』


 うわっ、また声が……?

 それに視界の端になにやらログみたいなのが……。


 うーん、レベルが上がる時って特に演出とかはなかったはずだけど……。

 もしかしてこれ、私の固有スキルと何か関係があったり……するよねさすがに。

 さっき、勇者化がどうとか言っていたし。


 でもまあ、とりあえず今は帰らないと。

 いくら私が強くなったって言っても、ここが危険な場所であることに変わりはないし。

 そもそも今の私がどこまで通用するのかも分からないし。

 二人だって、もう生きているかも分からないからね……。


 さて、それじゃあ帰り道は……どこだろうね?

 あはは……それが分からないのが転移トラップの怖さなんだって、授業でもたくさん聞いたなぁ。

 ……いや、本当にどうしよう。

 

 なんにせよ、まずは歩くのみかな。

 歩き続ければ、きっと出口へたどり着けるはずだから!




 ……はい。

 ダメでした。

 まったくもって出口への道が見つかりません。


 当然、スマホも繋がらない。

 階層の浅いところなら辛うじて魔力電波が繋がるんだけれど、残念ながらここは圏外だった。


 と言うか、そもそも上の階層へと移動する階段すら見つからないのだけれど?

 確かダンジョンの構造は下の階層へと進むたびに広く複雑になっていくはず。

 だとするとここは……もしかしてそうとう深い場所だったりします?


 ええ、嘘でしょ……。

 せっかくこんなに凄い力を手にしたって言うのに、外に出られずに餓死だなんてそんなの嫌だよ。


『前方に敵性反応を確認』


「うわびっくりした!? なになにどうしたのいきなり。前方に敵って……あ、もしかしてアレのこと?」


 見れば遥か前方、岩のような大きな物体がモゾモゾと動いている。

 教本によればあれは確実にゴーレム……それも、あの輝きとなると恐ろしい程の硬さを持つミスリルゴーレムであることは確定的に明らか。


 幸いこちらには気付いていないから、このままやりすごしてもいいのだけれど……せっかくなら戦ってみよう!

 だって今の私は、めちゃくちゃ強いから!


「先手必勝! うおおぉぉ!!」


 溢れ出るエネルギーに身を任せ、暴力的なまでの激ヤバ身体能力であっという間にミスリルゴーレムとの距離を詰める。

 そして先ほどオークロードの首を吹き飛ばした時と同じように、全力で拳を叩き込んだ。


――キイイィィンッッ


「かっっっっった!?」


 いくら硬くても、それ以上のパワーで砕けば勝ち。

 そんなふうに考えていた時期が私にもありました。


 耳をつんざく甲高い金属音。

 腕から体全体へと伝わる衝撃。

 あまりにも硬すぎるミスリルゴーレムの外殻は私の拳をいとも容易く弾き返したのだった。


「いっ……たくはないかな、あんまり」


 身体能力が底上げされたおかげで反動ダメージだとか、そう言ったものはないらしい。

 けれど攻撃が通らなかった事実は変わらない。

 ひとまず距離を取ったのはいいけれど……さて、どうしたものだろう。


 そう言えばさっきオークロードの棍棒を手に入れたとかなんとか……。

 もしかしたらそれで殴ればワンチャン……なんとかなるかな?


『NO。今の身体能力では棍棒を使用しての殴打も通用しないと思われます』


「そうなの? やっぱり、いくら勇者化のスキルがあっても駄目なものは駄目なのかぁ……」


『NO。本来の能力が解放されればミスリルゴーレム程度の魔物は敵ではありません』


 本来の……能力?

 もしかしてあの時の称号とか何とか言っていたのがまだ必要だったり?


『YES。勇者化のスキルを完全開放するためには称号【弱きを救う者】が必要となります』


 弱きを救う者……か。

 確かに勇者っぽい。

 でも誰かを救うにもここはダンジョンの奥深くだし、他の人なんていないよね。

 

 そもそも、いたとしてそれは弱き者なのだろうか。

 きっと高レベルの探索者なのではないだろうか。


 なんにせよ、勇者化の力が完全開放できないとなると物理攻撃に限界が来たということは分かった。

 となればやるべきは……そう、魔法!

 さっきの声によれば今の私は上級属性魔法を習得している……はず!


『YES。勇者化の力が一部解放されたため、初級から上級までの属性魔法を使用することが可能です』


 おーけーおーけー。

 それじゃあやるしかないよね。


 ミスリルゴーレムは物理攻撃には圧倒的な耐久性能を持つけれど、魔法ダメージの軽減効果はない。

 ならば今の私の魔法でもダメージが通る……はず。

 いや、通るよね?


「……ううん、やってみないと分からないんだ。ならば物は試し。えっと、こう……かな? ロ・サイクロ!!」


 体の底から湧き上がる膨大な魔力を手の平へと集め、上級風魔法を放つ。

 どういう理屈かはわからないけれど、これもまた感覚でわかった。

 まるで今まで何度も何度も使い込んで来たかのように、歴戦の魔術師のように、手に取るようにその使い方がすんなりと頭の中から浮かび上がってきた。


――ゴビュゥゥゥッ


「ッ!!」


 ミスリルゴーレムは私の放った風の刃に気付いたらしい。

 けれど、時既に時間切れ。


――スパッ


 まるで豆腐を切るかのように、ミスリルゴーレムの堅牢な外殻は容易く斬り裂かれたのだった。

 ……それどころか奥の壁へと命中した風の刃はそのまま石造りの壁を斬り裂きながら、奥へ奥へと飛んで行ってしまった。


 は、はは……なんて恐ろしい魔法。

 こんなものを誤射しようものなら味方パーティが全滅しかねない。

 少なくとも周りの安全が確保できていない時は高ランクの魔法は使わない方がいいかもしれない。


 と言うか、これで上級なんでしょ?

 じゃあ最上級魔法って一体どんな威力に……うん、考えたくもない。

 それにそんなトンデモ魔法を使わないといけないなら大抵ろくでもない状況だろうし、そんな機械は訪れないことを願うばかりだ。


『ミスリルゴーレムの討伐を確認しました』

『レベルが【62】に上昇しました』

『戦利品として【魔銀のビキニアーマー+5】を獲得しました』


 やった、あっという間にレベルが60超え……って、えっ?

 ビ、ビキニアーマー?

 聞き間違いじゃ……なさそう。


 うわっ、なにこれ肌の露出多すぎでしょ。

 さすがにこんなの防具として使えないんじゃ……。


『鑑定が完了しました。詳細情報を表示します』


【魔銀のビキニアーマー+5】

 ミスリル製の美しいビキニアーマー。高い技術で作られた至高の逸品。

 魔力による保護能力を持ち、その露出度の高さとは裏腹に鋼鉄のフルプレートよりも遥かに高い防御能力を持つ。

 アイテムランク:逸話級

 強化値:+5

 特殊効果:・物理ダメージ軽減+30%

      ・魔法ダメージ軽減+30%


「……んぇ?」


 いや強すぎでしょこれ……えっ、本気で言ってる?

 超級ランクのアイテムでさえ数百万で取引されるのに、更にその上って……と言うか、そもそも存在するんだ逸話級って。


 うーん……どうしよう、装備するべきかな?

 防具自体の性能もそうだし、何より特殊効果が強いなんてものじゃない。


 ニュースで見た限り、高額で落札された全身鎧でもダメージ軽減は一種類のみでせいぜい10%と言ったところ。

 なのにこの防具には物理ダメージと魔法ダメージの両方の軽減効果が30%も付いている。

 純粋な属性ダメージは素通りになっちゃうけれど、それでも申し分なさすぎる性能だ。


 少なくとも今の私の能力値にこれだけのダメージ軽減が乗れば、間違いなくここら辺りの魔物の攻撃はノーダメージになる。

 つまりは確実な安全を得られる……。

 安心を求める事こそ人間の目的だって誰かも言ってた……んだけどさ。


「さ、さすがにこれは……」


 体の前にかざすだけで、なんだか恥ずかしくなってくる。

 当然だよ。こんなバカげた露出だもん。こんなのほぼ水着じゃん。

 いくら防御能力が高くたって、色々見え過ぎるし、なにより恥ずかしいし……。


 いやまあダンジョンの中だから人に見られることはないのだろうけど、それでもやっぱり羞恥心と言うものはあって……。

 それにいくら魔物と言ったってゴブリンとかオークとか、そう言う蛮族っぽいのを変に刺激しかねないし……。


 幸いオークロードの棍棒の時みたいにアイテムストレージ?って言うのに入れて持ち運びできるみたいだから着なくたっていいんだよ。

 持って帰って売却すれば相当な値段になるはず。

 だから自分で使う必要はない。ないよ、絶対に。



「……はっ!? って、私の馬鹿! 何で着ちゃってるの!!」


 もはや無意識の犯行。

 私の心の奥底、無意識領域は最後の最後でこのドスケベアーマーを着ることを選んでしまったらしい。


 これは不可抗力。

 そう、不可抗力なのだ。

 新しい強そうな装備を手にしてしまった以上、試しに着てみないわけにはいかなかったのである。

 恐ろしい。これが勇者の力……。


『NO。それはマスターがドスケベなだけだと思われます』


「ドスケベとか言わないで……!!」


 無理がある。

 それは私自身が理解していた。

 こんなところで露出過多なビキニアーマーを着ているエロ女がドスケベでないはずがない。


 はい。そうです。

 私はドスケベです。

 欲求には抗えませんでした。


「うぅ……それにしても、本当に露出だらけだ。はみだしてない……よね?」


 何がとは言わない。

 もっとも、心配なんていらなかった程にビキニアーマーは私の体にフィットしていた。

 まるで最初から私のために作られたかのように。


『YES。ダンジョン内でのドロップ品はドロップさせた対象者の体型に合わせて生成されます』


「そう言えばそうだったっけ……?」


 落ちこぼれなこともあって、あまりドロップ装備とは縁がなかったから気にしてなかったけれど、確かにそんな噂はあったような気がする。

 市場に出回っているドロップ品は大抵が大規模な攻略隊がごちゃ混ぜにして売却したものだから、個人の体型だとかはあまり考慮されていないのだ。


 いや、そんなことはいいんだって。

 このドスケベ痴女装備のままダンジョン内を歩くのがヤバイって話で……。


『疑問。何故マスターはビキニアーマーの上に何も装備していないのでしょうか。元々着用していた装備を上から着用しても該当装備の効果は充分に発揮されると思われます』


「……え? あ、確かに……。え゛っ……本当に?」


 もしかしてもしかするかもしれないけれど……私はとんでもないはやとちりをしてしまったのではなかろうか……?


 ビキニアーマーと言えば他は何も纏わず露出過多のまま戦う。

 そう言うものだと、ある種のパブリックイメージと言うか、固定観念にとらわれていた。

 しかしよくよく考えてみれば馬鹿正直にビキニアーマーだけを身に着ける必要はない。


 ここはルールに縛られたRPGの世界などではないのだから。


 だとすれば今の私は非常に滑稽極まりない。

 何がドスケベ痴女装備だ。私の方が遥かにドスケベじゃん。

 

「はぁ……あほくさ」


 結局、この数分間はなんだったのだろうか。

 ただただ私が頭ドピンクなのを無様に晒しただけであった。


 


 ……と、まあ。

 そんなこともありつつ、驚くほど順調に脱出のためのダンジョン攻略は進んだ。

 出てくる魔物はどれも強力だったけれど、それ以上に今の私の方が強いので特に苦戦はない。

 もはや敵無し。敗北を知りたい。


 少し気になる点があるとすれば、ぴったりサイズのビキニアーマーの上から革の上着を着ているから少しキツイと言うか、若干ゃ動きにくさを感じるところだろうか。

 と言っても戦闘にそこまで大きな問題はないのだけれど。


 はいそこ、キツくなるほどのサイズは無いじゃんとか言わない。

 一応気にしてはいるんだからね?


 なんて冗談も交えながら、もはや時期外れの遠足気分で上層への階段を探しながら歩いていたところ……出会ってしまった。


 てっきり、もう死んでしまっていると思っていたのに……。

 まさか、こんなところにいたなんて……。


「はぁ……はぁ……」


 鼓動が早くなる。

 息が荒くなる。


 ついさっきまで順調なダンジョン攻略をしていたせいで忘れかけていた感覚。

 死ぬ直前、恐ろしい程に頭の中を埋め尽くした感情。


 復讐心。

 ドロドロとしたその感情が再び全身を駆け巡った。


 だって、あそこにいるのは……ブラッドとアニトラの二人なのだから。


「ブラッド……アニトラ……!!」


「……ッ!? お、お前……!?」


「生きて……いたの!?」


 二人の元へ近づきながら、二人の名を叫んだ。

 すると二人の表情が驚愕のそれへと変わった。

 当たり前か。私は二人の中ではとっくに死んだものとして扱われていたのだろうから。


「は、はは……そうか生きていたのか。まあでも、俺たちは悪くねえからな? あの状況じゃあれが最善だったんだ」


「そうね。私たちが生き残るためには、ああするしか無かったのよ」


「……そっか」


 謝ってほしいわけじゃなかった。

 別に、今更仲直りしたいわけでもない。

 そもそもできるはずもない。


 だって、あれだけのことをされて……許せるはずがないよね?


「二人共、私にしたこと……謝るつもりはないんだね」


「あ、当たり前だろ!! お前みたいな落ちこぼれのために俺たちが死ぬ意味がわからねえ!!」


「その通りよね? アンタ、身の程を知りなさいよ!」


「そっか……うん、分かった。それじゃあ……私も二人のこと、もう仲間だとは思わない」


 なんて言っても、既に仲間だとは思っていなかったのだけれど。


「俺たちだって仲間だとは思ってねえよ! んで、わざわざそれを言いにきたってのか? それとも今更やっぱ助けてほしいってか?」


「ううん、どちらも違う。私は……二人に復讐しに来たの」


「……復讐? 復讐って言ったのか? はッ、何を言うかと思えば。俺のレベルは38だぞ? 固有スキルだって中級剣術を持っているんだ! お前みたいな最底辺の勇者モドキに何ができる?」


「そうね。私だって、レベル32なのよ? 魔法も使えないアンタに、私たちをどうにかできるだなんて思えないわ」


「うんうん、そうだね。なら、私はあの状況で格上のオークロードからどうやって逃げたんだろうね」


「……は?」


「……え?」


 怒りにも似た表情をしていた二人は素っ頓狂な声を上げて目を丸くしている。

 へへ、良い反応をしてくれて助かるよ。脳汁が出る。


「い、いや……ただのハッタリだろ? 嘘に決まっている。お前みたいなのがあの化け物を倒せるはずがない」


「そうよね……? あんなの、高レベル探索者を何人も抱えている大手のダンジョン攻略企業だって簡単には対処できないわよ」


「でも、事実として私はあのオークロードを倒して今ここにいる。それが現実。つまり、二人は最底辺でるはずの私以下ってこと」


「嘘だ!! 俺は認めねえぞ!! お前のような最底辺が俺たちより遥かに強いって? ありえねえんだよそんなこと!! アニトラ、やっちまうぞ!! 俺たちをバカにしたこと、後悔させてやらねえと気がすまねえ!!」


 そう叫ぶや否やブラッドは剣を抜き、勢いよく向かってきた。

 まさに怒りが有頂天。良い感じに激怒している。

 そうでないと復讐もつまらないからね。


「うおおぉぉぉッ!!」


――ブンッ


 振り払われた剣は空を切るのみ。

 当然。私にとってはこの程度の斬撃、遅くて仕方がないのだから。


「躱した!? いや、ただの偶然だ!! おい、アニトラ! 魔法はまだか!!」


「たった今詠唱が終わったところ! さあ食らいなさい、私の最高出力のイ・グレイスを!!」


――キイイィィンッ


 アニトラが放った中級氷魔法は見事に私の下半身を凍り付かせた。

 だけど、所詮は中級魔法。今の私の魔法に対する防御能力をもってすればまったくもってダメージなど入らない。


 そしてもちろん……。


――バキィィンッ


 私の身体能力の前では移動を阻害する追加効果も意味をなさない。


「嘘……どうして、私の本気の魔法を受けてそんなに平然としていられるのよ……!!」


「こうしてみると中級魔法ってあまり強くないんだね。あの頃は雲の上の存在だと思っていたけど、今では子供のお遊びみたい。ねえ、魔法って言うのは……こうやって使うんだよ」


 手を前方へと向ける。

 そして魔力を込め、放った。


「ロ・アグニス」


――ゴオオォォォッ、ッゴオォォォンッ


 特大の火球が二人の頭上を通り抜け、後方の壁を吹き飛ばした。


「な……何なのよその魔法! そんなの、人魔大戦時代の記録でしか見たことないわよ……!!」


「騙されるなアニトラ! そんなはずはないんだ!! 落ちこぼれのアイツにこんなことができるはずはない……そうだ、きっと皮喰いの仕業だ! アイツの死体を食った皮喰いがアイツに化けて俺たちを殺そうとしているんだ!!」


 皮喰いかぁ。

 確かに、状況的にはそれを疑っても仕方がない……と言うか、落ちこぼれだったはずの人間がこんなに急に強くなって現れたら皮喰いを疑う方が自然かも。


 ちなみに正式名はスキンイーター。

 その名の通り、探索者を喰らってはその皮を纏い、声を模倣することで新たな探索者を誘いこんで襲う凶悪な魔物。

 恐ろしいその生態から探索者の間では皮喰いと呼ばれ、非常に警戒されている。


「あはは、確かに皮喰いかもしれないね。けれど、もし今の私が皮喰いだと言うのなら、あの時のオークロードはどうなったんだろうね?」


「ぐっ……そ、それは……」


「いくら恐ろしい魔物とは言え、皮喰いはオークロードよりも弱い。なのにオークロードから私の死体を奪えるのかな? ……ねえ、認めてよ。強くなったんだよ、私は。二人よりも圧倒的にね」


「あ、ありえないわ! こんなに常識外れの強さ、急に手に入るわけがないじゃない!」


「そうだ……! きっと何かの間違いで……」


 ふふ、二人共そうとう追い込まれているのがわかる。

 そうだよね。もう受け入れるしかないもんね。

 目の前にいる私が本物だと、自分たちよりも遥かに強い存在だと。


 はぁ~♥

 二人共、良い顔♥ 


 ふへへ、その顔が見たかったんだよ。

 自分よりも弱かったはずの相手に手も足も出ないと言う絶望。

 その絶望に染まったその顔が♥


 なんだかゾクゾクしてきちゃった。

 復讐を果たすって、こんなに気持ちが良いんだね。


 でもまだまだ。

 まだまだこれからだよ。


 あの時の私が受けた痛み、恐怖、苦しみ。

 全て二人にも味わってもらないと。


「ねえ、二人共。覚悟はできた?」


「ひぃッ!? く、来るな!!」


 一歩踏み出す。

 その度に二人は一歩、後退る。


 なんと言う愉悦。

 今この場を支配しているのは私なのだと、魂で理解できた。

 最高の気分だ。


「や、やめろ……来るんじゃねえ!!」


 ブラッドはまるで子供のように闇雲に剣を振り回している。

 こんな児戯でも固有スキルのおかげでそれなりの威力にはなっているみたいだけれど……残念ながら私には効かない。


――ガキィィンッ


「……は?」


 私の体に当たった瞬間、剣の刃は粉々に砕け散ってしまった。

 今の私にとって中級程度のアイテムランクの武器はオモチャみたいなものだからね。


「く、来るんじゃないわよ!! イ・グレイス!!」


――キィィンッ


「またそれ? 効かないって言ってるのに」


「イ・グレイス! イ・グレイス! イ・グレイス!! なんで、なんで止まらないのよ!!」


 何度も何度も氷魔法を放たれたが、これまたダメージは無い。

 むしろミスリルゴーレムを殴った時の反動の方が痛いくらい。

 

 つまるところ、正真正銘二人は私に勝つことなどできないってこと。

 さあ、絶望して?

 そしてもっと絶望に染まった顔を私に見せて?


「くっ、こうなったら仕方がねえ! アレ使うぞ!」


「でもアレは売ったら物凄い額になるのよ!? それにここから脱出するために必要になる可能性だって……」


「うるせえ! ここで死ぬよかマシだろうが!」


 一体なんの話をしているのだろうか。

 まあ、なんだろうと私には通用しないだろうけれど。


「へっ、その余裕そうな顔もこれまでだぜ……なんせコイツは、上級魔法が込められたマジックアイテムだからなぁ!!」


 そう叫ぶとブラッドは腰のポーチから水晶のような物を取り出した。

 マジックアイテムって言っていたけれど、私にはよくわからないな……ねえ、アレが何かわかる?


『YES。あれは上級爆発魔法【ロ・エクスプ】が封じられたマジックアイテムです。使用することで一度だけ魔力を消費せずに上級魔法を発動させることが可能となります』


 うーん、上級魔法……それも爆発魔法となるとかなりの威力にはなりそう。

 けれど一体どこであんな貴重そうなものを……。


「どこでそんなもんを……って言いたげな顔だな? ま、当然か。超級ランクのアイテムなんざそう簡単に手に入るもんじゃねえからな。なぁに、ちょっと運が良かっただけのことよ。たまたま死にかけてた探索者がいてよぉ……戦利品をありがたく受け取っただけだぜ」


「ホント、死にかけていてくれて助かったわ。おかげで私たちだけでも無理やり……って、そんなことはどうでもいいわよね。これさえあれば、いくらアンタでもひとたまりもないんだから」


「そう言う事だ。さあ、謝るなら今の内だぜ?」

 

 あぁ……うん。

 そっか。

 二人共、私以外にも手を出しちゃったんだ。


 じゃあもう……駄目だね。

 復讐なんか関係なく、もうこの二人を放っておくわけにはいかないじゃん。

 ここで放っておいたら、絶対にこの二人は今後も被害者を出し続ける。

 

 私が、止めないと。


「使いなよ。私は謝るつもりはないし、二人を許すことも絶対にないから。それに、多分私には効かないよ」


「つ、強がりやがって!! だったらいいぜ! せいぜい後悔するんだな!!」


 ブラッドの持っている水晶が光り輝く。

 かと思えば――


――ボゴオオォォォッ


 瞬く間に辺り一面が爆発に包み込まれていた。


 流石の威力。これはまさしく上級魔法のそれだ。

 ビキニアーマーによる魔法ダメージの軽減効果があってもなお少し痛い。

 けれど、それでも掠り傷程度でしかなかった。

 今の私にはもはや上級魔法による攻撃ですらまともなダメージを与えることはできないのだ。


「ハハハッ! だから言ったんだ! まったく、大人しく従っておけばこんなことに……は? お、おいどうなってやがんだ……嘘だろ……?」


 煙が晴れ、そこにほぼ無傷の私が立っていたのを見てブラッドは相当驚いたらしい。

 さっきまでの威勢の良さが瞬く間に消え去ってしまった。


「ど、どうして今の爆発を受けて生きているのよ……! あんな爆発に耐えられるなんて、高レベルの探索者でもないと絶対に……」


「私が高レベルだとしたら? 具体的にはそう……レベル86くらい」


「ッ!? ……あ、ありえねえ。俺でさえレベル38だってのに……お前なんかが、そんなレベルになれるはずがねえ!!」


「どうせ嘘なんでしょう!? だってそれじゃあ……私たちには絶対に勝ち目が……」


 そう、最初から二人に勝ち目なんてない。

 それを理解してもらわないと。

 だって、これは復讐なんだから。


 恐怖して、絶望して、心の底からあんなことをしなければよかったって、そう思ってもらわないと。

 まあ、どれだけそう思ってももう遅いのだけれどね。


「それじゃあ……もう、俺たちに勝ち目はないってか……?」


「待ってブラッド! 違う、違うの! きっとこれは何かの間違いなのよ! だって、アナタが勝ってくれないと私じゃ絶対に……」


 ふふっ……あははっ。

 二人共、本当に良い顔。

 その顔をもっと見せて?


 もっと、もっと、絶望して……私を楽しませてね?


『報告、前方に敵性反応有り』


「え? まったく、良い所だったのに」


「……は? お、お前……誰と喋ってやがんだよ」


 あ、そっか。

 あの声って私にしか聞こえてないんだ。


 まあいいや。

 どうせ二人には関係のないことだし。


 それより、せっかく魔物が来たんなら……最後はアレに任せよう。


「なっ!? なんだアイツ!?」


「嘘……あれ、アイアンリザードじゃない……!?」


「嘘だろおい……な、なあお前! そんだけの強さならあの魔物もどうにかできるんだろ!? さっさと倒せって!!」


「そ、そうよ! アンタならあんなの簡単にやっつけられるんでしょう!? 早くやっつけちゃいなさいよ!!」


 現れたのは上位種の中でもかなり強力な魔物であるアイアンリザードだった。

 当然、ブラッドとアニトラの二人では逃げることすら難しい相手だ。

 だからこそこうして私に懇願しているわけで……ふふっ、なんて滑稽なんだろう。


 あれだけ自分の力を過信して驕っていた二人が、今じゃこうして恐怖しているんだから。

 まったく、最高だよ。

 それじゃ……。


「二人共、ここでお別れだね」


「は……? お、おい……お前何を……!」


 二人を氷魔法で拘束し、後方へと下がる。

 これでもう二人は逃げられない。


「お、おい待て! お前ふざけんじゃねえぞ!! さっさとこの氷を消しやがれ!!」


「残念だけれど、それはできない。だってこれは……二人への復讐だから」


「復讐って……まさか、アイツに俺らを食わせようってのか!? おい、やめろ!! 自分が何をしているのかわかってやがんのか!?」


「ま、待って! 私が悪かったから!! お願い許して!! 私はブラッドに命令されていただけなのよ!!」


「アニトラ!? お前何を言って……」


「逆らえなかったの!! 私の力じゃブラッドには勝てない……ねえ、分かるでしょう?」


「だとしたら何? 許して欲しいの? そのせいで私はあそこで死んでいたかもしれないのに? それに、命令されていただけならあの罵倒は? あれらは全部アニトラ自身の言葉だよね?」


「そ、それは……ち、違うの……! ごめんなさい……本当に、私が悪かったから……お願い、助けて……」


「おいアニトラ! お前、自分だけ助かろうってのか!?」


「仕方ないでしょ!! 私だって死にたくないもの!!」


「俺だって死にたくねえよ!!」


 二人の間で醜い争いが続く。

 なんともまあ酷い。けれど清々しい気分だ。

 最後の最後まで最悪な二人でいてくれてありがとう。


 これで心おきなく……復讐を達成できるよ。


「大丈夫、二人とも一緒にあの世へ送ってあげるからね。まあ、それをするのは私じゃなくて……」


「グルガアアァァッ!!」


「あのアイアンリザードだけれど」


「ひぃっ!? ま、待って……嫌だ……私、まだ死にたくな……」


「ガウアアァァァッッ!!」


――ゴシャッ、バキッ……ぐちゅ、メギュッ


「アニトラ……? な、なあ……おい、嘘だよな……?」


 一瞬にしてアニトラはアイアンリザードに上半身を食いちぎられ、残った下半身は力なくその場へと崩れ落ちた。

 そしてアイアンリザードの口の中から聞こえる叫び声もすぐに消えてしまった。

 恐らく多量の失血によるショックで死んでしまったのだろう。


 どうせならもう少しジワジワとなぶり殺しにしてくれた方が見ごたえがあったんだけれど……まあ、これはこれでパニックホラー映画みたいな面白さはあったかな。


「や、やめてくれ……い、嫌だ……!! まだ俺は死にたくねえ!!」


 アニトラが喰われたのをすぐ真横で見ていたからか、ブラッドは半狂乱状態になったかのように予備のナイフを振り回し始めた。

 とは言えあのナイフじゃアイアンリザードには傷一つ付かないだろうけれど。


「グブルルルゥゥッ!!」


 むしろ変に攻撃する姿勢を見せたせいでアイアンリザードを刺激してしまっている。

 アニトラだったものを咀嚼し、飲みこんだアイアンリザードは完全にブラッドを敵として認識したらしい。

 丸太のような巨大な脚を振り上げたかと思えば……。


――ゴッ、べちゃっ


 勢いよくブラッドへと叩きつけた。

 その威力は凄まじく、私の氷魔法で氷漬けになっている足だけがその場に千切れて残り、ブラッド本体は恐ろしい程の衝撃と共に壁へと打ち付けられてしまっている。


 いやぁ、なんとも惨い。

 わりかしすぐに死んでしまったアニトラがまだマシだったって分かるね。


「ぁ゛……ぐ、ぅぁ……」


 とは言え、辛うじて生きているという状態であることに変わりはない。

 痛みが、苦しみが、ブラッドの全身を襲っていることだろう。

 恐怖が、絶望が、ブラッドの中に渦舞いていることだろう。


 まあ、これもインガオホーってやつだからさ。

 せいぜい最後まで苦しんでね?


「あ゛ぁ゛っ、ぃ゛、嫌……だ……。死にだく、な゛っ……」


――メギョ、ゴギッ


 ……あぁ、最高の気分。

 ブラッドが喰われる直前、最後に見せた恐怖に染まった顔が、最後に聞こえた絶望に染まった声が、これでもかと私を昂らせる。


 これで、私の復讐は果たされた。

 私の復讐は……終わったんだ。

 

「グルオオォォォッ!!」


「……っと、そうだった。アイアンリザードは別に私の味方ってわけじゃないんだもんね」

 

 あくまで近い方から狙っていただけに過ぎない。

 二人を喰い尽くせば次のターゲットは私だ。


 と言っても、別に私の敵ではないのだけれど。


「私の復讐を手伝ってもらっておいて悪いけれど、私を食べようって言うのなら容赦なく倒させてもらうよ!」


 拳を握り、アイアンリザードへと向かって跳ぶ。

 確かにアイアンリザードの甲殻は硬い。けれど、それでもミスリルゴーレムに比べれば大した硬さではない!


――ゴギュンッ


「グゴガァッ!?」

 

「良い一撃だったでしょ。でも、それだけじゃないよ!」


――ドガガガガッ


 無数の連撃を叩き込む。

 さながら処刑用BGMと共に行われるラッシュだ。


「ガッ、ググガァッ……」


 ズシンッと倒れ込んだアイアンリザードはもう二度と動くことは無かった。

 私の勝ちだね。いえい。


『アイアンリザードの討伐を確認しました』

『レベルが【92】に上昇しました』

『戦利品として【鋼竜のグレートソード+8】を獲得しました』


 おお、これまた強そうな武器が出たね。

 魔銀のビキニアーマーのことを考えるとこれも期待して良さそうだけど……。


『鑑定が完了しました。詳細情報を表示します』


【鋼竜のグレートソード+8】

 アイアンリザードの力が込められたグレートソード。

 その硬さと切れ味はまさに至高の領域であり、あらゆるものを斬り裂くことを可能とする。

 アイテムランク:逸話級

 強化値:+8

 特殊効果:・ダメージ増加+50%

      ・金属特効+50%


 おお。

 これはおおでしょ。


 またも逸話級なのに、強化値もかなり高いからねこれ。

 ダメージ増加の効果量が大きいのもべりべりグッド。

 金属特効があるおかげで討伐時にレベルが上がりやすい金属系の魔物に対するダメージも増えるし。

 

 いやもう、最高じゃんね。

 ちょうど剣が無くて困ってたんだよ。上級剣術スキルがあるのに棍棒しかなかったからさ。

 こうなりゃ私のメイン武器はこのグレートソードで決まりだね。


 ふむふむ、脱出のための物資も色々と揃ってきた。

 復讐も果たせたし、はやいとこ脱出しないと!

 そして学園でたくさん学んで、探索者になって……この勇者化の力で、たくさんの人を助けないとね!



 ――こうして、固有スキル『勇者化』の本当の力を手にした私の新たな日常がこの日、産声を上げたのだった。

 しかし、待っていたのは当然穏やかではない日々。


 ある時は誰もが予想していなかったダンジョンブレイクに遭遇し、外へと溢れ出た魔物の大群と言う脅威を一騎当千の大活躍で退けた。


 またある時は高難易度ダンジョンで戦利品として入手した幻想級の超絶レアアイテムが、国中どころか世界中を渾沌に陥れる程の一大事件を巻き起こすこともあった。


 世界中の探索者学校の代表者と親善試合をすることだってあった。

 この時、私は本格的に探索者世界ランク最上位に登録されたんだったっけ。


 他にもこの世界にダンジョンが出現した原因、その鍵を握るであろう魔族の王に目を付けられたこともあったし、ダンジョン信仰のヤバイ教団に崇められそうになったこともあった。


 とは言え、そんな壮絶な日々の中で得た物が多かったのも事実。


 たくさんの人々を救う中で手に入れたのは【弱きを救う者】と言う称号。おかげで勇者化の力を完全開放することができた。

 最上級のスキルによる強大な力と限界を超えたステータスがなければ、きっと魔族の王を倒すことはできなかっただろうね。


 魔族の王との戦いで力を貸してくれたエルフの大賢者や、何故か私への矢印がクソデカなミステリアス色気たっぷり色白吸血鬼少女。自らを神の遣いだとか言って、私の事を主と慕うケモミミちゃん。

 世界の観測者を自称する頭のおかしい幽霊少女もいたっけか。

 そんなどこか不思議な美少女たちとの出会いもあった。


 これも全て勇者化の力のおかげだ。

 私の人生はこの力のおかげでとてつもなく充実し、面白くなった。

 だから私はこの力を使って、この大好きな世界に出来る限りの恩返しをするんだ。


 それこそが、私の……この世界にただ一人の『勇者』の使命なのだから。

この主人公、復讐の快楽にとらわれてことあるごとに勝手に首を突っ込んでは復讐の名のもとに好き放題してそうでヤバイね。勇者なら何してもいいってわけじゃあないよ。


P.S.

ちなみにこの世界にダンジョンを放り込んだ魔族の王はアヴァロンヘイムの枝葉世界の内の一つの世界から来た存在で、グリーンローズの魔法文明が残した転移魔法と迷宮生成の魔法を解析してこの激ヤバ芸当を成し遂げたよ。グリーンローズ、またお前か。最後にチラッと出てきたエルフの大賢者はなんやかんやあってこの世界へとやってきたステラなので実質先祖の尻ぬぐいだね。可哀想。

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