第三章 私が、私が、私がーーー!
記者会見から一ヶ月後。ヒショガーマンの事務所は静寂に包まれていた。支持率は過去最低を記録し、次の選挙での落選は確実と言われていた。
「先生、地元の後援会から離党要求が来ています」
田中苦労秘書が重い表情で報告した。記者会見で真実を語った後も、田中秘書はヒショガーマンのそばにいてくれていた。
「そうか...当然だな」
ヒショガーマンは窓の外を見ながら呟いた。
「私が悪いんだ。君に迷惑をかけて、国民の信頼も失って...政治家失格だよ」
「先生...」
「田中君、君は他の議員の秘書になった方がいい。私と一緒にいても君の経歴に傷がつくだけだ」
しかし、田中秘書は首を振った。
「私は先生と一緒に政治を学びたいんです。本当の政治を」
「本当の政治?」
「はい。責任転嫁をしない、『私が』で始まる政治です」
その時、事務所の電話が鳴った。
「はい、転嫁事務所です...え?テレビ局から?」
電話の内容は意外なものだった。某テレビ局から、政治バラエティ番組への出演依頼だった。
「『責任転嫁からの脱却』というテーマで、先生の体験談を話してほしいそうです」
「私の体験談を?」
「はい。最近、政治家の責任転嫁が社会問題になっているので、先生の経験を反面教師として紹介したいと」
ヒショガーマンは考え込んだ。
「反面教師か...それも悪くないかもしれないな」
テレビ出演当日。スタジオには他の政治家やコメンテーターも呼ばれていた。
「転嫁議員、まずはこれまでの経緯を説明していただけますか?」
司会者の質問に、ヒショガーマンは深呼吸した。
「私は長年、都合が悪いことがあるたびに『秘書が勝手にやった』と責任転嫁をしてきました」
「なぜそのようなことを?」
「責任を取るのが怖かったんです。政治家としての地位を失いたくなくて...」
「でも今は違う?」
「はい。私が気づいたのは、責任転嫁は一時的に自分を守るかもしれませんが、最終的には信頼を失うということです」
他の出演者も真剣に聞いていた。
「具体的には、どのような変化が?」
「まず、何かあったときに『私が』で始めるようにしました」
「『私が』?」
「はい。『私が判断ミスをした』『私が説明不足だった』『私が責任を取る』...常に『私が』で始めるんです」
スタジオに感心の声が上がった。
「それは大きな変化ですね」
「おかげで、秘書の田中君との関係も改善しました。今では本当の意味でのパートナーとして働けています」
番組は予想以上の反響を呼んだ。視聴者からは「政治家の責任の取り方について考えさせられた」「転嫁議員の変化が印象的だった」といった意見が寄せられた。
番組放送後、ヒショガーマンの事務所に一本の電話がかかってきた。
「もしもし、転嫁事務所ですが...」
「私、第五十五選挙区の有権者の山田と申します」
「はい」
「テレビを見ました。先生の『私が』という言葉に感動しました」
ヒショガーマンは受話器を握りしめた。
「ありがとうございます」
「実は私も会社で同じような経験があって...部下に責任を押し付けていたことがありました。でも先生を見て、反省しました」
「そうですか...」
「先生、もう一度頑張ってください。今度は『私が』で始まる政治を見せてください」
電話を切った後、ヒショガーマンは田中秘書に言った。
「田中君、私たちはまだやることがありそうだ」
「はい、先生」
「『秘書が』で逃げていた私は確かに最低だった。でも今度は『私が』で向き合う政治家になりたい」
それから半年後、ヒショガーマンは「責任政治推進議員連盟」を設立した。政治家の責任転嫁をなくし、「私が」で始まる政治を推進する超党派の組織である。
「私が発起人として、この議連を設立いたします」
設立記者会見で、ヒショガーマンは力強く宣言した。
「かつて『秘書が』を連発していた私が言うのも恥ずかしい限りですが、政治家は常に『私が』で始めるべきです」
「転嫁議員、支持率も回復しているそうですね」
「ありがとうございます。でも私が目指しているのは支持率の回復ではありません。本当の意味で国民の皆様に信頼される政治家になることです」
その後ろで、田中苦労秘書が満足そうに微笑んでいた。
「先生、今日も『私が』で始まりましたね」
「当然だよ、田中君。もう『秘書が』は封印したからね」
「でも先生、一つだけ『秘書が』と言っても良いことがあります」
「え?何だい?」
「『秘書が誇りに思える政治家になった』です」
ヒショガーマンは涙を流した。
「ありがとう、田中君。君のような秘書を持てて、私が幸せです」
今日も蓬莱帝国国会議事堂のどこかで、「私が」で始まる政治を実践する議員がいる。かつて「ヒショガーマン」と呼ばれた転嫁逃避議員は、今では「ワタシガーマン」として新たな政治活動を続けている。
蓬莱帝国の怪人・痛快・迷物国会議員の物語は、責任転嫁から責任受容への成長物語でもあったのである。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
※コメントやレビューは、みなさまに平等にお返しができないため、OFFといたします(ご了承ください)。
【動画】 YouTubeにて公開しています。




