君の四葉のクローバー
(近い・・・)
こんなすぐそばにいるなんて、猫の時は当たり前だったのに、耐えられない・・・!
奈々ちゃんが小さな声が聞こえてくる。
「明日ね、颯太君の誕生日なんだよ」
「・・・そうなんだ」
「それでね、誕生日プレゼントを買いたいから、さり気なくほしいものを探ってもらえないかな」
ショッピングモールは奈々ちゃんのリクエストだった。
女の子は買い物が好きと聞いていたので、奈々ちゃんも買い物が好きなんだなとのんきに考えていたが、本当はプレゼントで何がいいか探りたかったからだったのだ。
(なんでだよぉ・・・)
奈々ちゃんが頬をピンクに染めてお願いのポーズをしている。
そんなの断れるわけがない。
僕はコクリと頷くしかなかった。
「このコップ欲しいのか?」
「この形いいよねぇ」
颯太がコップを持ち上げて、ニコッと笑った。
奈々ちゃんがそっと僕に近づいて、耳打ちをしてくる。
「えっと、色が黒がいいの?」
「黒か青かなぁ」
そう言って黒と青を持ち上げて、見比べている。
相当面倒ではあるが、これも奈々ちゃんのためだ。
ふと、お店にある鏡をみると、人間の顔をした自分が写っている。
姿形は人間だ。
ずっとなりたいと思っていた人間になっている。
でも、形が変わっても、奈々ちゃんとの距離は変わらない。
何なら猫の時よりも距離は遠くなっている気がする。
すぐ隣で奈々ちゃんと颯太が楽しそうに帽子を選んでいる。
奈々ちゃんが笑っているのに、楽しい気持ちになれない。
そっとズボンのポケットに触れる。
(これだけは渡して伝えるんだ)
ショッピングモールをある程度見終わると、奈々ちゃんのおススメのケーキ屋さんへ向かうことになった。
ケーキ屋さんはショッピングモールから少し離れたところにある。
話しながら3人で、ショッピングモールを出て、大通りの前で信号待ちをしていると、後ろから子供たちがはしゃぎながらこっちへ向かってきた。
前を向いていない子供が、走ってきて奈々ちゃんの背中に思いっきりぶつかった。
前へこけそうになって、立て直そうと奈々ちゃんが足を前に出す。
道路の方に奈々ちゃんの体が出ていく。
(危ない)
奈々ちゃんの腕をつかんで、歩道にぐっと引っ張った。
その反動で自分の体が道路に出ていく。
奈々ちゃんが驚いた顔でこちらを見ている。
颯太が奈々ちゃんの身体を受け止めた。
その瞬間、ドンと自分はお尻をついて、右をみるとトラックがそこに来ていた。
立ち上がるまでにこのままでは轢かれるのが一瞬で分かった。
猫の身体だったら助かっただろう。
本当に人間は厄介だ。
ズボンのポケットに触れる。
(奈々ちゃん…)
奈々ちゃんの涙が見える。
「クロバくん・・・!」
それが僕の最後に見た景色だった。
「クローバー、おいで」
名前を呼ぶと、クローバーは「にゃあ」と甘えた声をだして飛んできてくれる。
「今日は無事に帰ってきたお祝いにケーキ買ってきたよ」
そう言って猫用のケーキをクローバーに差し出した。
「初めてのケーキだね」
そういうとクローバーはきょとんとした顔をしている。
クローバーは私にとって大事な家族だ。
先月いなくなってしまった時には、本当に心配でたまらなかった。
もう会えないのかと諦めかけてきたが、先週傷だらけで帰ってきた。
慌てて病院へ連れて行ったが、けがは大したことはなく、翌日から元気に餌も食べている。
「ケーキ美味しい?」
顔の周りをクリームまみれにしながら食べている。
よっぽど美味しいのだろう。
最近なんだかクローバーを見ていると、大事な友人を思い出す気がする。
忘れてしまったけれど、すごく大切な友人が私にはいた気がするのだ。
さらに不思議なことに、颯太の家に遊びに行った日に色んなものが2つあって、まるで誰かと住んでいたような状況になっていた。
颯太によると、気づいたらこの状況になっていたのだと、困った顔をしていた。
「大事な人の物のような気がして捨てられないんだよね」
本当に不思議な感覚だ。
「ねぇ、クローバー。私なにか大事なこと忘れちゃったのかな?」
クローバーはちらりとこちらを見て、「にゃお」と言った。
「少し寒くなってきたね」
空気の入れ替えで開けていた窓を閉めようとすると、すっと風が入ってきて、はらりと紙が一緒に部屋に入ってきた。
「何だろ?」
折り畳まれた紙を広げていく。
“ぼくは、ななちゃんのえがおがだいすきです。ぼくはななちゃんのしあわせをねがっています”
つたない文字がでこぼこに並んでいる。
どうしてだろう。
涙があふれてくる。
クローバーが顔をぺろぺろと舐めてくれた。
僕の名前は、クローバーである。
1万分の1でしか生えてこない。幸運の葉っぱと同じ名前だ。
奈々ちゃんの幸せだけを願う。
僕は、奈々ちゃんの四葉のクローバーだ。




