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自分らしくいられる?

「ねぇ、クロバくん」

奈々ちゃんの瞳が揺れる。


「クロバくんは好きな人の前でも自分らしくいられる?」


「自分らしく?」


「なんか私いつも好きな人の前ではダサいところ見られたくないとか、バカって思われたくないとか色々考えちゃってなかなか言葉が出てこなかったりするんだよね」


確かに颯太の前の奈々ちゃんとお家にいる時の奈々ちゃんは違う。

家では大声で笑ったり、泣いたり、パパさんと喧嘩したり、表情がコロコロ変わる。

なのに、颯太の前では口数も少なく、ただニコニコと微笑んでいる気がする。


「自分らしくいたいのにな。その方が上手く話せるはずなのに」


「自分らしくってどういう意味?」


僕が聞くと奈々ちゃんが困った顔で少し考える。


「うーん、よく見られたいとか考えずに、自然な自分のままでいるみたいな感じ」


「難しいことはわからないけど、颯太の前の奈々ちゃんも、普段の奈々ちゃんも、どっちも奈々ちゃんだし、どっちの奈々ちゃんも僕は可愛いって思うよ」


奈々ちゃんは驚いた顔をして、その後すぐに顔が赤くなった。


「私の好きな人がなんで颯太くんって知ってるの!?」


奈々ちゃんから聞いてるからとは言えない。


「見てたらわかるよ」


奈々ちゃんは、そんなに態度に出てるの?と恥ずかしそうに頭を抱えた。


「絶対誰にも言わないでね」


小さな唇に人差し指をあてた。


その姿が可愛くて、綺麗で…僕は目を伏せるしかなかった。


「あとクロバくん、そういうこと他の人に言っちゃだめだよ」

「そういうことって?」

「だから・・その、かわいいとか」


奈々ちゃんが耳まで真っ赤になっている。


「可愛いって奈々ちゃんもよく言ってるのに」

「言ってない!」


奈々ちゃんが休憩室に置いてあるお手製のチラシに目線をやった。

僕の写真と探していますと書かれている(らしい)


「私、クローバーの前では自然でいられるんだよね。パパやママに言えないことも何でも言えるし、どんな時も傍にいてくれてさ」


奈々ちゃんは、また机に突っ伏した。


「ねぇ、クロバくん。見つかるかなぁ、クローバー」

「見つかるよ、きっと」


(ここにいるよ)


「嫌になっちゃったのかな・・・。いつも愚痴ばっかり聞かせてたからなぁ」


「絶対そんなことない!」


悲しげに伏せた顔をぱっと奈々ちゃんが上げた。


「絶対、クローバーだって家帰りたいって思ってるよ。奈々ちゃんのところに戻りたいって思ってる。きっと事情があって帰れないだけで」


「・・・まるでクローバーの気持ちがわかってるみたい」


「いや、そういうわけじゃなくて。そりゃそんなに飼い主に大事にされてる猫ちゃんが家出するわけないなって思っただけで」


「・・・ありがとう」


奈々ちゃんは、ふふと微笑むと、また「クロバくんは面白いね」と言った。


「奈々ちゃん、今度・・・」


奈々ちゃんが好きなドラマで見たことがある、好きな人同士はでーとに行くと。

イケメンの若造が、かわいい女の子に言っていた。


“今度一緒に出掛けませんか?”


その後二人でお出かけをしていた。

この魔法のセリフを言えば、こんな短い休憩時間じゃなく、ゆっくりと奈々ちゃんと話せる。

それに元気のない奈々ちゃんもでーとに行けば元気がでるかもしれない。

言葉を発しようとすると、胸がどきどきして、鼓動が聞こえそうだ。


「あの、今度・・・」

奈々ちゃんの後ろに水越と書かれたロッカーが目に入った。

『私、颯太君って男の子のこと好きなの』そう言って自分を抱きしめてくれた日が蘇る。


(奈々ちゃんの笑顔を見るには…)


「今度・・・、今度颯太くんと3人でお出かけしない?」



(どうして、颯太まで声をかけてしまったんだろう)


キッチンで皿洗いをしながら、お店のカウンター近くで楽しそうに颯太と奈々ちゃんが話しているのをただ後ろから見てるしかない。

奈々ちゃんのそばで仕事が出来るように、家でも少しずつ文字を颯太に教えてもらっているが、なかなか覚えられない。

まだ奈々ちゃんに手紙の返事は書けていない。


(悔しい・・・)


振り返った奈々ちゃんがニコリと笑いかけてくれる。

ドキドキして顔が赤くなる。

微笑み返したいが、上手く表情が作れない。


人間になって慣れてないからだろうか、それとも、

“なんか私いつも好きな人の前ではダサいところ見られたくないとか、バカって思われたくないとか色々考えちゃってなかなか言葉が出てこなかったりするんだよね”


奈々ちゃんの言葉が蘇る。

奈々ちゃんもこんな気持ちなのだろうか。


(やっぱり悔しいな)


「クロバくん、寝ないの?」

颯太が眠たそうな欠伸をしながら、ふらふらとこっちに歩いてくる。

「もう少し文字の勉強してから寝る。夜の方が集中出来るんだ」

僕がそう言うと、「無理しないようにね」と言って、颯太はベッドに入った。


「あ、明日は奈々ちゃんと遊びに行く日だからね、8時には起こすから」

ベッドから眠たそうな声で颯太が声をかけてくる。


「わかった―」


明日は奈々ちゃんと遊びに行く日だ。

奈々ちゃんが嬉しそうに笑う顔が浮かぶ。

思い出すと、今すぐにでも会いたくなる。


(明日絶対渡すんだ)


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