第8話:ハブ・アンド・スポークの再誕
第7話をお読みいただきありがとうございます。 開墾から半年。道の駅は、もはやただの避難所ではありません。 剛田が提唱する「道」の真価が、今、試されます。 「ご安全に!」
「親方、一号車、入ります!」
タケルの力強い誘導の声が、今や巨大な要塞へと変貌した『道の駅・あさぎり』に響く。 ゲートを潜って入ってきたのは、廃材で装甲を強化された四トンダンプだ。荷台には、隣町の農村から届けられたばかりの黄金色の米袋が山積みになっている。
剛田がこの半年に成し遂げた最大の功績。それはゾンビを掃討したことでも、電気を通したことでもない。 分断されていた町と町を、再び「道」で繋いだことだ。
「よし、荷下ろしを急げ。帰りの便には、精製した軽油と、村野さんのところで仕分けした抗生物質を積め。日没までに村へ帰してやるんだ」
現場事務所のデッキに立ち、剛田は双眼鏡を覗きながら指示を出す。 かつて死に体だった国道は、剛田の重機艦隊によって放置車両が撤去され、路肩が補修され、今や「復興道路」として息を吹き返していた。
剛田は、事務所の壁に貼られた巨大な地図を指でなぞった。 道の駅を中心に、四方八方へ伸びる道。それは自転車の車輪のスポーク(車輪の骨)のように広がり、中央のハブ(道の駅)へと物資が集まる仕組み――「ハブ・アンド・スポーク」だ。
「……親方。当初は反発していた連中も、今やこの道を通らなきゃ生きていけないって気づき始めてますよ」
横に立つ村野が、分厚い台帳を閉じながら満足げに呟く。 村野の仕事は、もはや配給の管理ではない。各地のコミュニティとの「貿易」の管理だ。 剛田が道を作り、九条がその道の安全を保障する。その対価として、各地から食料や資材が集まってくる。
「道ってのはな、物だけが通るんじゃねえ。……『自分たちは一人じゃない』っていう安心が通るんだ。それが通れば、人間はゾンビに怯えて引きこもるのをやめる」
そこへ、警備班のリーダーである九条が、埃にまみれたバイクで帰還した。
「親方、国道16号の分岐点までクリアした。……だが、そこから先は『地獄』だ。放置車両の数がこれまでとは桁が違う。それに、アイツらの数も……万単位だ」
九条の言葉に、事務所内に緊張が走る。 16号線。その先にあるのは、かつてこの国の心臓だった場所――東京だ。
「……そろそろ、本丸(東京)を攻める時期か」
剛田はポケットから、使い古されたスパナを取り出し、手の中で転がした。 半年をかけて、この地方一帯は「更地」から「街」へと戻りつつある。だが、東京が死んだままでは、日本の再起動は完結しない。
「タケル、九条。……全車両の整備を始めろ。消耗品はすべて村野に揃えさせろ。次は、空を行くぞ」
「空、ですか?」
タケルが怪訝な顔をする。剛田は不敵に笑い、地図上の「首都高速道路」を強く叩いた。
「地上を埋め尽くすゴミ共を相手にする必要はねえ。……俺たちが作った新しい道を、空中に繋ぎ合わせてやるんだ」
物流網の構築が、人々の心に希望を灯しました。 しかし、剛田の視線はすでに「東京奪還」という最大の難現場へ。 次話、新時代の通貨制度が誕生します。 「ご安全に!」




