第6話:地下の「血」を汲み上げろ
第5話をお読みいただきありがとうございます。 銃口に囲まれた最悪の現場。そこで剛田が示したのは、武力ではなく「土木屋のプライド」でした。 燃料という名の文明の血を、再び循環させる作業が始まります。 「ご安全に!」
物流センターの広大なアスファルト。その一角に、剛田の操るPC200が静かに、しかし力強くバケットを突き立てた。
周囲では九条率いる『再興軍』の男たちが、銃を構えたまま半信半疑でその作業を見守っている。少しでも不審な動きをすれば、即座に弾丸が撃ち込まれる緊張感。だが、剛田のレバー操作には、一ミリの迷いも、一分の無駄もなかった。
「……親方、深度三メートル。図面通りなら、この下に緊急遮断弁があるはずです」
タケルが泥にまみれながら、重機のすぐ脇で誘導の合図を送る。剛田は無言で頷き、バケットの爪先で、アスファルトの下の「何か」を優しく撫でるように動かした。
ガリッ。
硬質な手応え。剛田は即座に機体を止め、エンジンをアイドリングに落とした。
「タケル、そこからは手掘りだ。……九条、お前んとこの奴らも遊ばせてるならスコップを持たせろ。穴の中に銃を持ち込むな、火花が散ったら全員まとめて消し飛ぶぞ」
剛田の怒号に、武装した男たちが顔を見合わせる。九条は少しの間をおいてから、「……指示に従え」と短く命じた。 プライドの高い武装集団が、泥まみれになって穴を掘る。それは、この数年で誰も見たことのない奇妙な光景だった。
やがて、土の中から鈍い銀色に輝く耐圧バルブが姿を現した。 剛田は重機から降り、腰の工具袋から特大のレンチを取り出すと、バルブの接合部を叩き、音を確認する。
「……生きてるな。オイルシールも死んじゃいねえ」
剛田が全体重をかけてレンチを回すと、錆びついた金属が悲鳴を上げ、ゆっくりと回転した。 次の瞬間、配管の中から「ゴボッ……」という、重厚な液体の移動する音が響き渡った。
「通ったぞ! サンドポンプを繋げ! タンクローリーへ直結だ!」
タケルたちが走り回り、ホースが脈打つように震え始める。 汲み上げられたのは、数年間密閉されていたために劣化を免れた、純度の高い軽油だった。 九条が、その燃料が流れるホースに手を置く。まるで生き返った巨人の脈動を確認するように。
「……信じられん。我々が数ヶ月かけてもこじ開けられなかった『宝箱』を、あんたは数時間で開けてみせた」
「鍵(重機)の使い道を知らねえだけだ、小僧。……これで契約成立だな。半分は俺たちの道の駅に運ぶ。文句はねえな?」
「……ああ。約束は守る。だが、あんたの言う『協力の証』……そのチップが、本当にただの木切れじゃないと証明してみせろ」
九条は足元のチップを再び拾い、今度は丁寧にポケットへと仕舞った。 剛田は空を見上げる。まだ陽は高い。 燃料は手に入った。次は、この燃料を「価値」に変えるためのインフラが必要だ。
「タケル、帰るぞ。……今夜は道の駅に、数年ぶりの『明かり』を灯す」
重機が再び咆哮を上げる。 その排気煙は、絶望の闇を塗りつぶす、復興の狼煙のようにたなびいていた。
燃料の確保に成功しました! 次話、いよいよ拠点が物理的な意味でも「光」を取り戻します。 物語はいよいよ、内政の醍醐味である「文明の再生」へと加速していきます。 「ご安全に!」




