第4話:籠城は落ちた、今日からここを「詰所」と呼ぶ
第3話までお読みいただきありがとうございます。
剛田が道の駅に到着してから1ヶ月。
絶望に沈んでいた場所が、一人の現場監督の手によってどう作り替えられたのか。
復興の第一歩をご覧ください。
あれから一ヶ月。
『道の駅・あさぎり』の朝を告げるのは、ゾンビの唸り声ではなく、鋭い笛の音だった。
「集合! 朝の点呼を始めるぞ!」
タケルの張りのある声が、朝靄の駐車場に響く。
一ヶ月前、泥を啜るようにして死を待っていた三十人の生存者たちは、今や泥にまみれた作業着を纏い、整列していた。その目は、かつての絶望に濁ったものではなく、「今日の仕事」を見据える労働者の目に変わっていた。
彼らの背後には、剛田が近隣の工事現場から「徴用」してきた数台の重機が、黄色い巨体を変形させながら防壁の一部として鎮座している。
入り口には、廃車を積み上げ、さらにその上から生コンを流し込んで固めた、剛田特製の「バリケード」がそびえ立っていた。
「……親方、本日の作業員、欠員なしです」
タケルが剛田に向かって敬礼する。その手つきも、すっかり現場の若手のそれだ。
剛田は、仮設のプレハブ小屋――かつては避難所の資材置き場だった場所を改装した「現場事務所」から現れた。
「……よし。タケル、お前は二班を連れて裏手の排水溝を掘れ。村野さんは、こっちに来い」
剛田に呼ばれ、渋い顔をして進み出たのは、丸眼鏡をかけた小太りの男――村野だった。彼は元・市役所職員であり、剛田が来るまではこの避難所の責任者を務めていた男だ。
「剛田さん、いや、親方。改めて抗議しますが、この『工程表』は無茶ですよ。貴重なカロリーを消費してまで、なぜ今、裏山の斜面を固める必要があるんですか?」
村野は手に持った手書きの在庫管理表を突きつけた。
彼は事務能力には長けていたが、剛田の「土木優先」の考え方には、いまだに懐疑的だった。
「村野さん。あんたは『今日食う飯』のことしか考えてねえ。だが、来週大雨が降れば、この道の駅は裏山からの土砂で生き埋めだ。そうなれば、飯もクソもねえだろうが」
「それは、推測でしょう! 今は一粒の米の方が重要だ!」
「……推測じゃねえ。俺は土のプロだ。山が鳴いてるのが聞こえねえか?」
剛田が低く笑うと、村野は言葉を詰まらせた。剛田がこの一ヶ月で示したのは、圧倒的な「予見力」だった。
彼が「ここにゾンビが集まる」と言えば罠が機能し、「ここを掘れば水が出る」と言えば古びた井戸が再起した。
「いいか、村野さん。ここはもう『避難所』じゃねえ。俺が預かった『建設現場』だ。現場に不必要な人間はいねえが、指示に従えねえ奴は、現場を乱す事故の元だ。……あんたの事務能力は認めてる。だから、俺が現場を整える間、あんたはこの『詰所』の在庫をミリ単位で管理してくれ」
剛田は、村野の肩をゴツゴツとした手で叩いた。
それはかつて、市役所の窓口でクレーマーに頭を下げ続けていた村野が、誰からもかけられなかった「信頼」の重みだった。
「……分かりましたよ。……ただし、工期が遅れたら、責任は取ってもらいますからね」
村野は眼鏡を押し上げ、不機嫌そうに、しかしどこか満足げに机に戻っていった。
剛田は、事務所の壁に貼られた大判の地図を見つめた。
拠点(道の駅)の整備は、ひとまず終わった。
次なる問題は、重機を動かし続けるための「血」――燃料の枯渇だ。
「タケル! 準備しろ。明日は『調達』に出るぞ。……あそこの地下タンクを掘り返す」
剛田の視線の先には、ゾンビの密集地帯にあるはずの、大手物流センターのマークが記されていた。
ようやく拠点としての形が整ってきました。
しかし、重機を動かすための燃料が尽きようとしています。
次回、新たな生存者グループ「再興軍」の九条が登場。技術と暴力が激突します。
「ご安全に!」
【次回の更新予告】
!さやなやさわ2月12日(木)はこの後以下の時間に最新話を更新します!
・第5話:本日 12:00 更新
・第6話:本日 19:00 更新




