第2話:遺棄された列島
第1話をお読みいただきありがとうございます。
この第2話では、剛田が戦うことになる「壊滅した世界」の状況について触れていきます。
その日、人類の「脈」は止まった。
未知のウイルスは、航空網という文明の利器を伝って、またたく間に地球全土を覆い尽くした。大国も小国も、先進国も発展途上国も関係なかった。富める者はシェルターの中で、貧しき者は路上で、等しく死に、そして等しく「飢えた死体」として蘇った。
海を隔てた超大国は、感染拡大を止めるために自国内に核を落とし、そのまま沈黙した。巨大な大陸国家は、数億のゾンビを抱えたまま、地図の上からその境界線を消した。
世界はもはや、情報の断絶した暗黒の海だ。救援が来るはずの「海外」そのものが、すでに存在しない。
そして日本もまた、その例外ではなかった。
一億人がひしめき合って暮らすこの島国は、物流、電気、水道という「インフラの三半規管」を破壊された瞬間、自らの重みに耐えきれず崩壊した。
主要幹線道路は逃げ惑う車が折り重なる「鉄の墓場」と化し、発電所の維持管理が途絶えたことで、日本の夜は中世以前の暗闇へと戻った。かつてのハイテク大国は、今や「火を熾せるか」「雨水を貯められるか」という原始的な生存能力だけが試される土地に成り果てた。
衛星写真に映る地球は、かつての夜景が嘘のように、ただ冷たく黒い。
人類文明という名の巨人は、自重で潰れ、もはや自力で立ち上がる力は残っていない。
誰もが「元に戻るはずがない」と諦め、隣人を疑い、銃やナイフを握った。
しかし、瓦礫の底で独り、違うものを握りしめている男がいた。
剛田は知っている。
たとえ世界が滅び、救援などどこからも来なくても、地面が残っている限り、やりようはあるのだ。
かつてこの国が焼け野原から立ち上がった時も、誰も助けてはくれなかった。最初に動いたのは兵器ではなく重機だった。最初に引かれたのは一本の道だった。
道がつながれば、人は交流する。
水が出れば、人は定住する。
電気が灯れば、夜の恐怖は消える。
それは、国家という名の巨大な精密機械を再起動させるための、唯一にして最強のマニュアル――「土木」という名の希望だった。
「……救援だの、海外だの、他力本願な夢はもう終わりだ」
剛田は、重機の運転席で古い地図を広げ、泥のついた指で目的地をなぞった。
彼にとって、この地獄は「終わった世界」ではない。
ただ、ひどく手入れの滞った「巨大な建設現場」に過ぎなかった。
世界が完全に壊滅した中、一人の現場監督だけが「まだ修復可能だ」と考えています。
次話、いよいよ若者タケルとの対話が始まります。
「ご安全に!」




