第11話:六本木ヒルズ、再点灯
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空中回廊を切り拓き、ついに東京の心臓部へ。
剛田が最後に行う「工事」は、この死に絶えた島国に、再び魂を吹き込む作業です。
「ご安全に!」
六本木ヒルズ。かつて富と繁栄の象徴だったその巨塔は、今や巨大なコンクリートの墓標として、暗黒の街にそびえ立っていた。
「親方、地下の非常用発電機、生きてます! ですが、制御システムがロックされていて、ここからじゃ手が出せません!」
タケルの叫び声が、冷たい風が吹き抜けるエントランスに響く。
剛田は愛機のハッチを開け、地上を見下ろした。空中回廊を伝ってここまで来たが、ビルの周囲は、音を聞きつけて集まってきた数十万の「元・都民」たちに完全に包囲されている。
「九条、時間は稼げるか」
「……言わせるな。俺たちの『KW』は、このために貯めてきたんだ」
九条は日本刀を抜き放ち、背後の私兵たちに合図を送った。彼らは高架上の有利な位置から、次々と火炎瓶と爆薬を投げ込み、剛田の「現場」を死守する。
「おっさん、早くしろ! 弾丸にも数に限りがある。……お前が言う『新しい時代』ってやつを、早く見せてくれ!」
「……わかってる。タケル、重機を非常用電源の搬入口まで寄せろ。無理やり『バイパス』を作るぞ!」
剛田は重機のバケットを振るい、ビルの重厚な外壁を、文字通り「解体」し始めた。
通常の手段では入れない配電室。剛田は壁をブチ抜き、重機から伸ばした特製の給電ケーブルを、ビルの基幹系統に力任せに直結させた。
「いいか、これは修理じゃねえ。……『強制起動』だ!」
剛田がスロットルを最大まで引き上げる。
重機のエンジンが限界を超えて咆哮し、凄まじい電力がケーブルを伝ってヒルズの深部へと流れ込んだ。
一秒、二秒。
そして。
カチッ、という巨大なリレー音が地下で響いた。
次の瞬間、数年間沈黙していた六本木ヒルズの窓に、一点の光が灯った。
光は瞬く間に階上へと駆け上がり、頂上の展望台まで到達する。
真っ暗闇の東京に、一本の「光の柱」が立った。
「……おお、……すげえ……」
地上のゾンビたちと戦っていた九条の部下たちが、思わず手を止めて見上げた。
その光は、遠く離れた道の駅、さらにその先の村々、緊張感の中にいたすべての生存者たちの目に、鮮やかに焼き付いた。
それは単なる照明ではない。「人間がここにいる」という、強烈な宣戦布告だった。
「見たか……。これが、俺たちの仕事の成果だ」
剛田は操縦席で、震える手でタバコに火をつけた。
九条が返り血を拭いながら、剛田の隣に並ぶ。
「……親方。これで終わりか?」
「いいや、小僧。ここが『着工』だ。これから日本中、一軒残らず明かりを灯して回らなきゃならねえ。……一生かかっても終わらねえ、特大の現場だぞ」
光の柱の下、剛田と九条、そしてタケルは、初めて同じ方向を見ていた。
東京に、再び火が灯りました。
摩天楼が輝く姿は、文明が死んでいなかったことの証明です。
次話、第12話。15年後の世界を描く最終回です。
「ご安全に!」




