6 歓迎
「相変わらずわかりにくいですねぇ、この家」
水無瀬は昨日と同じくこのとてつもなく入り組んだ路地を通り、一条のすみか兼探偵事務所へ赴いた。
道は覚えていたので、昨日の半分の時間で到着することができた。
ガラガラと扉を開け、中に入…ろうとしたが、水無瀬は数メートル後ろに下がり助走をつけ、サッシのところで踏み切り、跳躍した。扉から3メートルほどの場所に着地した。そこから止まることなく椅子を足場にし、階段に向かって跳ぶ。床に置いてある本の山に手をつき、片手で倒立した。片腕の力で本の山を押し、くるりと回って階段に着地する。
「…なんで室内にこんな沢山の落とし穴作れるのでしょう」
そう呟きながらゆっくりと階段を登って行った。額には汗が滲んでいる。
「久しぶりですよこんなアグレッシブなうごー
階段の床が抜けた。
水無瀬は悲鳴をあげる暇もなく、階段の下にある落とし穴へと吸い込まれていった。
落とし穴の作者はこう思った。まさか部屋にあるほとんどの落とし穴はダミーで、階段の下のやつだけが本物なんて、誰も思わないよね。
「うわっ何も見えない!世界が白い!グラサンが白い!」
視界がゼロの水無瀬は慌てふためく。
全身を粉まみれにしながら、在らん限りの声量で叫んだ。
「一条さぁーん?!梯子、梯子持ってきてください!」
「大丈夫かい水無瀬くん」
すぐ横の物置の中で待機していた一条は、ハシゴを持って水無瀬に駆け寄った。絶対に粉がつかない完全防備だった。
その後、数分間かけて水無瀬は落とし穴から這い上がった。
「…まぁ、これも私なりの歓迎だよ」
「どこがです?」
「君のために小麦粉代と発泡スチロール代をかけたんだよ。これが歓迎以外のなんだっていうんだ」
それにね、と一条は言った。
「落とし穴のおかげで君の異能もわかった。まぁ、君は落とし穴に落ちることができて、私は君の異能がわかった。Win-Winだよ。Win-Win。」
「どこがです?」
先ほどから、水無瀬は全身真っ白の状態のまま、一条は毒ガス室に入るかのような完全防備のまま、この調子で言い合っていた。
「まぁ、この格好でいるのもなんだし、私着替えてくるよ。水無瀬くんは…2階にシャワーあるから使ってくれていい。ついでに風呂掃除しといてくれ」
そう言うと、そそくさと去っていった。
今の所推理要素ゼロですね。どうしましょう、このままジャンル詐欺になってしまったら。