4 交渉の時間だ (後編
「決めました」
水無瀬が澄んだ声で言うと一条は、それで、返事は?と問う。重い沈黙が流れた。
暫くして、水無瀬が口を開いた。
「交渉に応じます。で、条件は?」
「おー乗ってくれるんだね。焦らなくてもすぐ解放するよ。君を解放する条件は…」
一条はコツコツと足を進め、水無瀬の目の前で止まった。
顔に怪しい笑みを浮かべ、「私の助手になってくれたまえ!」と言った。
「…………は?」
「だから、探偵助手に…」
「それはもう分かりました。僕が聞きたいのはなんで僕が助手に?ってことです」
水無瀬は目を丸くして質問した。
「そんなの決まっているじゃないか!」
一条は椅子に腰掛け、人差し指を顔の前に持ってきた。
「探偵には、助手という存在が必須だろう?探偵を支え、ひらめきを与える大事な存在が。助手を務められるような優秀な人間そういない。だが、君は私の家のトラップを見抜き、引っ掛からなかったじゃないか。本当はその罠で殺すつもりだったのに、それで死なない優秀なやつだと踏んで、こうしてスカウトしているんだよ」
「僕じゃなくてもいいんじゃあないでしょうか?他にもそのぐらいできる人はいると思いますけど」
「…………そうか」
一条の表情が途端に消え失せた。
引き出しからナイフを取り出し、水無瀬に突きつける。
水無瀬の首に鮮血が伝った。
「…痛いですよ」
水無瀬が蚊の鳴くような声で言った。
だが一条はさらに力を込め、ここで殺されたいかい?とでも言いたげに目を細めた。
「…否、条件を呑みます」
「いい判断だ」
先程とは打って変わりにっこりと笑うと、ナイフを棚に戻し、傷つけた首を止血した。
「交渉成立。ということで、これからよろしく。えーっと…」
「水無瀬」
「これから宜しく水無瀬くん」
一条は椅子の後ろに回り込んで、手を握った。
そして試験管の中身を注射器に入れ、水無瀬のもとへ戻る。全て毒なわけではなかったようだ。
「じゃあ約束通り解毒薬を打つよ。あ、拘束は解けるみたいだから自分で解いてくれたまえ。副作用で1時間ほど眠るから、そこの枕使っていいよ」
おそらく子供用の、怪獣が印刷された枕指さして言った。
「遠慮しておきます。僕は雑魚寝で十分ですから」
出てくる毒と解毒剤は、飲んでも注射でも効果があるってことにしましょう。え?そんな毒あるかって?知るわけねぇです。