30 次章へ
「さて、もう今日やることは終わっちゃったし,中でゆっくり二度寝でもしようじゃないか。休みの日くらい惰眠を貪っても…」
「何言ってるんですか。次月夜野さんに会ったら…と言うかあの感じだと僕、いつ殺されるかわかりませんよ!僕が殺されない方法考えてください、面倒ごとに巻き込んだ責任取ってもらいますよ!」
「嫌だ!」
「その無駄に発達した脳みそを使えば一瞬でしょ!砂糖でも食って考えてください!」
大声で叫んだ水無瀬は、一条の首根っこを掴んで家の中へ引き摺り込んでいった。玄関を潜ったところで手を離し、素早く一条の正面に回り込むと、ワイシャツの襟と袖を掴んだ。
「え、ちょ、まって水無瀬くん、話せばわかっ…」
嫌な予感というか未来が見えた一条は、掴まれている腕を解こうと力を込めるが、抵抗も虚しく、ソファーに向かって背負い投げされた。がこん、と大きな衝撃音が鳴り響き、ソファーの足元に凹みができた。
「おー」「素人じゃねぇな、齧ってるぞ」「俺より上手いかも」
外からみていた警官達が歓声をあげる。誰一人一条を心配しなかった。
頭からソファーに激突した一条は,しばらく呻き声をあげていた。その後、後頭部をさすりながらのっそりと起き上がり、「しょうがないなぁ、君が殺されずに済む方法、考えるよ」と言った。
「まず、外出は控えた方がいいね。ズズッ…金髪にグラサンなんて一発で見つけられる…フーフー、ズズッ…から。特にこの辺は日陰が多いからサングラスしている人なんて滅多にいないし……ズズッ…うま!」
一条が背負い投げされてから数分後。警官達はそそくさと撤退し、再び朝の穏やかな雰囲気が流れはじめた。それをぶち壊すように、一条は「朝ごはんだよ」と言って手作りにしてはやけに完成度の高い二郎系ラーメンと、オレンジジュースを出した。しかもラーメンの方にはニンニクがチューブ一本分ほど追加されている。もちろん朝からそんな物食べられるわけがない為,水無瀬はキッパリと断った。
その結果一条はコーヒー(角砂糖3〜7個入り。実質ココア)と二郎系ラーメン(ニンニクマシマシ)という最悪な組み合わせの食事をしながら『水無瀬くんが殺されないようにしよう大作戦』の内容を話しはじめた訳である。
「私の知り合いにね、ズズッ…用心棒からビー玉の詰め放題までなんでもやってる万屋が居るから、行ってみようか。あ、水無瀬くんのサングラス作ったのもそこの店主だよ。ズッ、ズズッ…いざという時には戦力になってもらおうじゃないか」
背脂で輝く麺を啜りながら言った。
橋をスープの中に突っ込んでもう麺がないことを確認すると、どんぶりを持ち上げて最後の一滴まで飲み干す。ふぅ、と満足そうにため息をつき、手を合わせて「ご馳走様」と言った。
「じゃあ行こうか。もう8時だし、そろそろ起きているはずだ」
どんぶりをシンクの中に突っ込みながら言った。




