2 電撃
「えっと…?ここでいいのですかね?」
とある町の閑静な住宅街で、水無瀬は途方に暮れていた。その理由としては、2つのことが挙げられる。
ひとつ。道が入り組みすぎている。細い裏路地は多いし、家の庭かと思えば折れた冊や石で軽く整備された道だったりと、道がアリの巣のように入り組んでいるのだ。移動するだけでも普段の倍の体力を使う。
ふたつ。地図の目的地の点が大きすぎてどの家だかわからない。先程、水無瀬は首領に「分かりにくいところだからね。まぁ君なら迷う心配もないけど」と地図を渡されていた。だが、地図自体がかなり広い範囲を示した物であり、なおかつ点が大きいため、家が十数個ほど点の下に隠れているのだ。このままでは拉致があかんと思い、点のちょうど真ん中にあたる場所まで行ってみたが、ただのゴミ捨て場だった。
結局、自身の推理力を頼りに、目的地までたどり着いた。その結果、今に至る。
「お邪魔しまーす」
水無瀬は躊躇いもなく昔ながらの玄関扉をがらがらとスライドさせ、中に入った。
この家に靴を脱ぐスペースはなく、そのまま入るスタイルだった。高級感のある黒い革張りのソファが置かれ、その前にはガラス張りのローテーブル。テーブルの上には書籍やペンが散乱し、スリッパに大量の定規が収納してあった。その他の場所も足の踏み場がないほど散らかっており、一条という人物の人間性が伺えた。
右手には螺旋階段があり、その上は吹き抜けになっている。
「死体は2階ですね」
そう呟くと、水無瀬はコツコツと階段に近づきー
「っ!」
首筋に衝撃が走った。
体の筋肉が硬直し、一気に弛緩する。
目を見開いた。
体を動かすことができず、無抵抗のまま床が迫る。
水無瀬は糸の外れたマリオネットのように膝から崩れ落ち、床にうつ伏せになった。
「スタン…ガン…ですか………」
振り向こうとするが、スタンガンを食らったせいでまともに動ける状態であるはずはなく、手足をぴくりと動かすことさえできなかった。
「初めまして。初対面からスタンガンを使って申し訳ないね。私にも都合というものがあるんだ」
背後から声が聞こえた。女性とも男性とも断言できない、中性的な声。だが氷のように冷ややかで、鋭い声だった。背後の人物は話しながら水無瀬の背中に足を乗せ、ごつごつとした黒い物体…拳銃を突きつけた。
「抵抗すれば殺す。君にはどこぞの毛利さんのように眠ってもらうが、目覚めた時、近隣住民に聞こえるような声を出したり、何か怪しい動きをしたりしても殺す。いいかな?あ、安心してくれたまえ、このピストルは音が出ないタイプだから」
そう言うと、水無瀬の背後で何かがキラッと煌めき、首筋にちくっとした痛みが走った。その直後、すっと意識が遠かった。
最近スリッパで卓球ができることを知りました。