表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非合法探偵  作者: 狩瀬
第一章
28/32

27 犯人仕立ての一条 〜水無瀬を添えて〜

「……………………は?」


数秒間の沈黙が流れた。

木々がざわめき、冷たい風が頬を撫でる。

猫が屋根から飛び降りて、裏路地へ駆けてゆく。

それを眺めながら、水無瀬は笑顔で声を発した。

「全く〜橋下さん!エイプリルフールはもう過ぎましたよ!」

「今三月って話するか?」

橋本は生真面目に答えながら,水無瀬に銃の標準を合わせる。その目は本気そのもの。一条を友人や探偵としてではなく、犯罪者のそれとして見ていた。

冗談ではないと理解した水無瀬は、疑問に思ったことを全て投げかける。

「どういうことですか?橋本さんは僕らを逮捕することはないんじゃ…ましてや一条さんなんて世にとっていいことしかしてないじゃないですか。どこに逮捕される要素があるっていうんです?」

「状況が変わったんだよ水無瀬」

頭をポリポリと掻きながら言う。いまだに銃口は向けたままだ。

「ガイシャが刺されていた包丁、あれが元々あったミニキッチンの引き出しを鑑識が詳しく調べた。そこに…何があったと思う?」

橋本はスーツの内ポケットに手を突っ込み、ゴソゴソと漁る。そして、証拠品袋を取りだしー

「一条の頭髪だよ」

低い声で言い放った。

水無瀬の周りだけ、重力の重さが変わったように感じた。

あまりの衝撃に目を見開く。

「俺が見ていた限りで、一条はリビングにしか足を踏み入れていない。なのに、ミニキッチンの引き出しに頭髪があった。逮捕するには十分すぎる証拠じゃないか?」

証拠品袋を掲げながら言う。

「まだあるぞ?親友の女子高生の話によれば、お前の家にハンマーがあったらしいじゃないか。ガイシャの頭にヒビが入っていたのはなんでだろうな?今から家宅捜索することもできるが」

橋本と取り巻きの警官たちはジリジリと距離を詰めていく。勿論その手には、拳銃。

「俺はな,犯罪を犯さないという条件で一条に情報を渡している。人を殺した以上、刑事として逮捕しない訳にはいかねぇんだよ。お前にも着いてきてもらうぞ、水無瀬。どう殺したか吐いてもらわねぇと」

鉄骨を曲げられそうなほどの目力でギロリと睨む。

あまりの眼力に、水無瀬は汗を垂らしながら後退りした。

だんだん詰め寄ってくる警官から逃れるように後退し続けると、いつのまにか背中は玄関扉についており、逃げ場のない状況になってしまった。

抱えている一条に目をやると、まだすやすやと寝ている。呑気なものだ。橋本以外の刑事に調べられれば、余罪なんていくらでも出てくる。どんな馬鹿が裁判官になっても死刑を言い渡すだろう。水無瀬自身も、ここで捕まってしまっては後がない。

「僕らは何もやっていないです。防犯カメラとかないんですか?」

「ない。…いや、“あった”の方が正しいな。お前らが女子高生から目を離したと言っていた、10時から10時40分のデータが消されている。普通なら復元できるのだが、入念に抹消されていた。これもお前らの疑いを深めた理由の一つだ」

「そうなんですか…困りましたねぇ」

水無瀬は残念そうに呟く。そして、何か考えるそぶりをしたのち、ポケットからカッターを取り出した。そしてそれを一条の首元まで運ぶ。

「水無瀬!何をする!」

焦った橋本は銃の引き金を握る手に力を込めた。

「まぁ黙っていてくださいよ」

橋本を一瞥してからカッターを握り直すと、刃先で首筋を撫で、切りつけた。その途端。

「痛っ!」

一条が起きた。流石に痛みを感じたら起きるだろうと考えた結果である。

「ちょ!何するの水無瀬くん!私の能力、怪我することはないけどちゃんと痛覚はあるんだよ?斬られたら普通に痛いから!」

目を擦りながら叫んだ。

「それに、なんだいこの状況は?橋本くん、頭おかしくなっちゃったのかい?」

「俺はこれ以上頭が悪くなることはない。話は署で聞いてやる」

橋本は手錠を取り出し、一条の手首にかけた。

一条はようやく自分が置かれている状況が理解できたようで、少し驚いた顔をした。

「何勘違いしてるのか知らないけど、私犯人じゃないよ?一旦落ち着いて推理を聞いてくれないかな。今こうしている間にも犯人は逃げてるんだから」

「しらばっくれても無駄だ」

橋本は聴く耳を持たない。後ろに待機している警官たちに「連行しろ!」と呼びかけ,自らは一条に銃を構える。

「いやぁ怖いねぇ。このままじゃ本当に連れていかれそうだよ。水無瀬くん!郵便受けに手紙はいってないかい?」

押しかけてくる警察官たちに抵抗しながら、落ち着いた様子で話しかける。水無瀬は壁についた昔ながらの郵便受けに飛びつき、入っていた手紙を確認する。

スーパーで卵半額セール開催のお知らせ、洋服屋のチラシ、年賀状数枚、クリスマスセールのお知らせ,ハロウィンイベントのお知らせ…どれだけ放置されているんだ。

「あ、あった」

小綺麗な封筒に包まれた手紙。差出人の名を見るとー

「月夜野雫ぅ?!」

「やはりか!」

一条は目をキラキラさせて言った。

「月夜野雫、非合法組織“残影”の首領!やつこそがこの事件の犯人だよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ