26 その扉を殴るのは
ーゴンゴンゴンゴン!!
扉を叩く音が、朝の静寂を破る。
それに気づいた水無瀬は重い瞼を開けた。
吹き抜けの窓から涼しい風が吹き込み、カーテンが揺れている。玄関扉や窓から差し込む光が室内を照らし、舞い落ちる埃がキラキラと輝いていた。
「もう朝ですか」
ゆっくりと重い体を起こし,大きく伸びをする。
ふぅ、と一息ついたところで、目元に違和感を覚えた。辺りを見渡し、いつのまにか外れていたサングラスを拾い上げ、着用。とてつもない安心感を得た。
「おい!一条真央!ここにいることは分かっているぞ!さっさと出てこい!」
耳が破裂しそうなほど大きい声と、扉を破壊しそうな勢いで叩く音で我に帰る。
さっきから扉を殴っている人は誰だ?
一条に用があるようだが、当の本人はまだ夢の中だ。
いそいそと一条に駆け寄り、肩をゆすって声をかける。
「一条さん、起きてください。来客ですよ」
…………起きない。
「一条さん!起きてください!」
…………起きない。すぐ近くで爆発が起きても起きないような人だ。こんなもんじゃびくともしない。
「一条さぁん?死んでるんですかぁ〜?起きてくださぁ〜い?」
そろそろ水無瀬もイライラしてきた。煽りっぽい口調で喋っても尚、起きない。
「クソが!いい加減起きやがれください!ええい、もうどうでもいいです!あとで文句言わないでくださいよ!」
そう叫ぶと、一条の背中と足に手を回し、持ち上げた。
扉を殴っている人の口調だと、かなり長い間一条を呼んでいたのだろう。これ以上待たせたら扉を蹴破るかもしれない。寝たままだろうが出した方が財布のためだろう。
「うわっ重っ!一条さん!体重何キロですか!」
怒ったら起きるかとも考えたが、これもまた失敗。
もう諦めて玄関まで運んだ。
鍵のつまみを捻り,ガラガラと音を立てながら扉をスライドさせる。視線を取っ手から正面に移動させると、
「………は?」
十数人の警察官が建物を取り囲み、橋本が銃を構えていた。
「一条真央、お前を……………
橋本は決然とした表情で、言い放った。
「殺人の容疑で、逮捕する」




