25 弁償代
月夜野が去って数分が経ち、ようやく周囲の混乱も落ち着き始めた。どこか遠くでサイレンが鳴っている。
「さて、救急車に見つかる前に退散しようか。一般の警察も来ているだろうし捕まったら面倒だ」
一条はひらひらとドレスを引きずりながら出口へ向かう。ガラスの破片でスカートが破けていたが、そんなことお構いなしに足を進めた。
「一条さん、そのドレス弁償する金あるんですか?」
「あるよ。これあの店の中で一番安いやつだから。やっぱ安物は強度が違うんだね。すーぐ破れた」
太ももまで大きく裂けたスカートを持ち上げながら言った。
砕かれた装飾ガラスの柱を横目にドアを押す。周囲の視線に見送られながら旅館を後にすると、すぐさま隣の仕立て
屋へ駆け込んだ。
ドレスとスーツの代金を弁償し、預けていた衣服を身につけ,二人は早々に帰路に着いた。
雨に打たれながら、路地を右へ左へと曲がり数十分。ようやく一条の自宅兼探偵事務所へ到着した。
「疲っれた〜!」
一条は本のタワーを巧みに避けながらソファーへ向かい、ダイブした。
「今日はもう何もしたくない。犯人も分かったことだし、橋本くんへの連絡はまた明日にしよう」
「あぁ、そ………………え?犯人が分かったぁ?!さっきまで「無理だ…諦めよう」とか言っていたじゃないですか!」
「さっきまでは,だよ。分かったもんは分かったの。もういいかい?私は寝る!」
そう言い放って、ソファーの上でスウスウと寝息を立て始めた。相当疲労が溜まっていたようで、20秒足らずで寝た。
「そうで……………す……………………か……」
戦闘のダメージと疲労で、水無瀬はその場に倒れ込んだ。




