23 覚悟
視界が真っ赤。何も見えない…
耳がおかしい…あ、耳鳴りですか。
頬が熱い。
殴られてどうなったのでしょう?一条さんは無事ですか?
その前にまず立たないと…
あれ?重力で引かれている方と逆に床がありますね………
まずいですねぇ、これは。
水無瀬は天井に磔にされていた。四肢を固定され、頭だけがガクンと重力に身を任せている。体には無数の切り傷が走っており,髪から赤黒い血が滴り落ちている。水無瀬の真下の白い絨毯は赤く染まっていた。
「うーん、水無瀬くんを人質にしても出てこないのか。これだけ痛めつけてるの見てなんとも思わないのかな。一条くんは。あ、でも出てきたところで天井にいるし何も出来ないか」
月夜野は大きく口を開けて笑った。
身動きの取れない一条はグッと歯を食いしばり,月夜野を睨んでいた。今すぐにでも立ち上がって「私が一条真央だ」と宣言したいところだが、あいにく体が言うことを聞かない。力を入れてみても微動だにしない。足には力すら入らない。
ー君ならどうにかできるだろう?水無瀬くん。
助手にしたばかりの青年で信頼関係もクソも無いが、例え一方通行であろうと、一条は水無瀬を完全に信頼する。探偵である自分が信頼しなければ、助手という役は務まらない。
だが一条が念を送ろうが睨みつけようが状況は変わらない。できるのは,祈ることだけである。
起きる気配のない水無瀬をしばらく見つめ、諦めかけたその時。
「は!」
水無瀬がびくりと動いた。
血まみれで視界は悪そうなものの、その目は確かに開いている。数回瞬きしたのち、状況を確認すべく周りを見渡した。
月夜野も意識が回復したことに気付いたようで、驚いた顔をして口を開いた。
「いやぁ、こんなに早く目覚めるなんて思わなかったよ〜。だけど残念。まだ一条真央は名乗り出てきていない。よって君を解放することはできない。吹っ飛ばした女は致命傷を負ってるから、あと数分もあれば死に至る。代わりの人質は君に勤めてもらおう。動けないみたいだし、ちょうどいいね!」
にこりとして言った。
「え…」
それを聞いた水無瀬は目を見開いた。
一条さんは今際の際。
一刻も早く医者に診せなければ。
四肢を固定している月夜野の異能力を外そうと試みるも、物理法則を無視した規格外の力に抗えるはずもなく、失敗に終わった。
ーそれならば。
水無瀬は何か決心したような表情を浮かべると、深く深呼吸をした。そしてギロリと月夜野を睨み,
「覚悟してください」
と呟いた。




