22 スポーツマンシップ
「できることなら使いたくなかったよ…私に能力使わせるなんて、水無瀬くんも成長したじゃない」
「一般人相手に回し蹴りする人に言われても嬉しくありません」
「そうか。残念だよ」
そう言って月夜野は壁を使って跳躍し、空中に躍り出た。そこからさらにペンダントライトを蹴って天井に手をつき、重力が逆さになったかのように着地した。
「私の能力‘物体操作’はね、私自身が‘モノ’だと認識すれば発揮されるんだ。…運がいいことに私は‘物質’と‘物体’の違いがよく分からなくてね。自分自身が‘モノ’だと判断すれば大抵のものは動かせる」
天井を蹴って落下するよりも速い速度で水無瀬にパンチを叩き込む。腕でガードしたもののもげるんじゃないかと言うほどの重さだった。
「でもね、この能力便利なんだけど面倒臭いところもあるんだよ。能力を使ったことによる変化を全て想像してからじゃないと使えない。例えばこんな風にっ!」
手近にあった照明を‘物体操作’で動かし、水無瀬にぶつけた。光はパチパチと点滅した後すぐに消え、周りを覆っていた硝子はバラバラに割れた。
「照明ひとつ動かすだけでも、空気の動きと硝子の破片の飛び散り具合から,今月の電気代の変化、買い替えるための費用、支配人の唸り声、片付けるバイトの給料まで、ぜーんぶ正確に想像しないといけないなんだ。まぁ〜頭は使うわ、知識は要るわで大変で大変で」
はぁー、とため息をついて言った。
「なんでそんなこと僕に教えるのですか」
息を荒げて走りながら質問を投げかけた。その間にも攻撃を続けるが全て躱されてしまう。
「私は君の能力を知っているけど、君は私の能力を知らないだろう?そんなの不公平じゃあないか。ほら、スポーツマンシップのようなものだよ」
にいっと、妖しく笑った。
それを見た水無瀬は眉をひそめ、
「ああそうですか。先攻後攻のじゃんけんは無かったくせに」
大きく振りかぶり、怒りと憎しみを込めた渾身のパンチを放つ。鳩尾を狙ったつもりが体を捻られ,左腰あたりに当たった。
月夜野はぐはっと声を漏らして少しよろけたが、またすぐに体制を戻して蹴りかかってきた。
「やり返しだ、よっ!」
先程よりも速度を上げた回し蹴りが右頬にクリティカルヒット。あまりの衝撃に意識が飛びそうだ。
月夜野は回し蹴りの勢いのまま右手、左手で交互に拳を放ち、同様に顔を狙ってくる。一発目はなんとか避けることが出来たが、そこからは全く避けることが出来なかった。
3回、4回、5回,6回、7回、8回…
回数を重ねるごとにだんだんと視界がぼやけていゆく。
あぁ、どうしよう。これ…
「トドメだ!」
再び右頬に衝撃が走った。




