20 硝子の雨
ドアは吹き飛び、周りを囲う装飾硝子は粉々に砕け散る。
砂埃が舞った。
全てがスローモーションのように遅かった。
シャンデリアの光が飛び散る硝子の破片に反射し、キラキラと輝いている。それはまるで晴天の中降る雨ようで、息を呑むほど美しかった。
…そう思ったのも束の間。
宙に浮いていた硝子は瞬く間に地面に向かって加速する。色とりどりの輝きを見せながら、重力に引かれて落下してゆく。
そしてー
「うあぁぁぁぁァァッ!」
入り口付近に居た人々に降り注ぎー
「いやあぁぁぁ!」
血飛沫をあげながらー
「きゃあぁぁぁ!」
人が悲鳴をあげて倒れてゆく。
先程と一変し,この場は地獄と化した。
雨のように降り注ぐ硝子の中、突然起こったその光景は、まるで天からの罰を与えられているかのようだった。
血を被ったガラスに通った光が赤く煌めき、ルビーのような美しさを見せた。そしてその硝子もまた、人々に突き刺さり,新たな血溜まりを作る。
左を向いても右を向いても同じような景色が広がっており、後ろには逃げ惑う人々、中にはパートナーが倒れて泣き叫んでいる者も居た。
ふと水無瀬が入口の方に目をやると,砂埃の中からコツコツと足跡を立てて、黒い影が近づいてきた。
非合法組織『残影』の首領。
一条を殺そうとした張本人であり、一条と接触させるのが一番危険な人物。当の本人はまだソファーで寝息を立てており、起きる気配はない。どうにか気づかれないようにしなくては。
首領の赤い髪は雨に濡れて光沢が増し,ポタポタと水滴を垂らしている。目は虚で、普段は柔らかな笑みを浮かべている口元も固く結ばれていた。
「あ、あぁ、水無瀬くん…少し聞きたいことがある。ちょっと事情があって死体置き場に足を運んだのだけれど、そこに、一条くんの死体が無かった。一条という名の死体はあったが、全くの別人。処理させれる前に逃げ出したのだろう。それで…」
肩に手を置き、上目遣いで水無瀬を睨んだ。
「君、何かした?」
常人なら気絶するであろう殺気の籠った眼。
その顔を見た水無瀬はにこりと作り笑いを貼り付け,言った。
「それで怒っているのですか。でも僕は何もしていませんよ?そこにあった死体を運んで、処理班に渡しただけですから。」
「嘘をつくな」
「本当のことです」
「……………………………………」
「……………………………………」
「まぁ、知らないならそれでいい。」
諦めたかのようにはぁ、とため息をついた。
「彼女には発信機が埋め込んである。この建物の中に居ることは事実だ。それならば…」
懐から小刀取り出し、一条が寝息を立てているソファーに歩み寄り、ほおをツンツンと触った。
一条は一瞬で目を覚まし、大きく目を見開いた。頭上には自分の命を狙う人物その人。メイクと格好のおかげで気づかれてはないようだが、まだ油断できない。頭の中で不安と緊張が入り混じり、声もなく見つめていると、首領は一条の首に腕を回して無理やり立たせた。
「うぁっ」
「五月蝿いよ」
手のひらで口を塞ぎ、もう片方の手で小刀を突きつけながら、フロアの中心へと歩いてゆく。そして、大勢の観衆がいる前で堂々と言い放った。
「一条真央!ここにいる事は判っている!名乗り出てこなければこの女を殺すぞ!」
ピアノを弾いている動画を見て、私も弾きたいなぁと思い練習してみますが、最初の30秒くらいのとこまでで諦めます。




