19 降り頻る雨の中で
「…駄目だ、お手上げだよ」
深夜2時。事件解決をしてから数時間後、水無瀬と一条はパーティー会場の一階に居た。一条は革張りのソファーに腰掛け天を仰ぎ、水無瀬は壁にもたれかかっている。
2人とも生気がなく、死んだ魚のような目をしている。
「諦めよう…あれは完全なる密室だ…向かいのマンションの人全員が共犯でも侵入するにはカメラがあるし、カメラが破壊されていたとしても窓には痕跡が残る。しかも特殊加工の硝子だから簡単に割れない。ダクトから忍び込むこともできなければ、ドアを開けられるわけでもない。ドアの開閉感知機のサーバーがハッキングされたわけでもない。警報がならないようにされてもいない…。
ドアを開けて行かなかったのは開けられなかったせいではなく、自分が不可能犯罪を成し遂げられるのだと警察と私に自慢したかったからか…?いや、そんなことはどうでもいい。早く犯人を…見つけな…い……と………」
一条はぐったりとうなだれ、目を閉じた。
「一条さん?!」
犯人に毒を盛られたか。持病か。なんにせよ早く医者に…
慌てて水無瀬が駆け寄ると、一条はスースーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
寝不足なだけであった。
水無瀬はほっと息を吐き、自分も少し寝ようとソファーに向かう。空いているソファーを探すため視線をあげ
「はっ!」
目を見開いた。
手先が震えていた。
水無瀬の視線は、踊る美しい女性を突き抜け、花束を落とした紳士を突き抜け、装飾の施された硝子の扉を突き抜け―
…降り頻る雨の中佇む、紅色の髪をした人物に留まった。
其の人はゆっくりと振り向いた。あどけない童顔に、仏のような笑みを貼り付けて。
その瞬間。
鼓膜が破れそうなほどの轟音が響き渡り,装飾硝子が飛び散った。
ついに愛用していたシャーペンが壊れてしまったので、二代目のシャーペンを購入しました。全く同じデザインです。




