1 命令
「今日呼び出したのは他でもない、君に頼みがあるんだ。…というかほぼ命令だね」
そう話すのは、高校生…下手をすれば中学生にさえ見える童顔の人物。
朱色の髪を7、3に分け、黒いサスペンダーを肩に通している。顔には笑みを浮かべ、一見やわらかな雰囲気を纏っているが、その眼は殺戮者の如く冷淡であり、冷酷であった。
「今日は何の用ですか。首領」
声を発したのは、奥の目が見えないほど黒いサングラスをかけた、金髪の男。部屋の隅にあるローテーブルに、トランプタワーを構築していた。
「用ってほどでもないけどね…」
首領と呼ばれた人物は椅子に腰掛けた。
「敵組織に肩入れしたやつがいてね。そいつの食事に、私オリジナルの毒を仕込んだ。今頃もがき苦しんでいることだろう。君には、その死体を回収してきて欲しい」
首領は足を組み替えながら言った。
「組織の人間なら少しぐらい情をかければいいのに。それだから部下に信用されないんですよ」
「一言余計だ水無瀬くん」
ぱら、と音を立てて水無瀬が積み上げていたトランプタワーが崩れ、床に散乱した。だが、首領はそんなこと気にせず続けた。
「で、なんで水無瀬くんにそんな雑用を頼むのかというと…」
そう言って椅子から降りると、棚の引き出しから分厚い紙束を取り出し、水無瀬に渡した。
「何ですかこれ」
水無瀬は首を傾げた。
「毒殺したやつ…一条の功績だ。頭が回る人でね、水無瀬くんよりは少ないが、多大なる成果を出した優秀な人材だった」
「…あぁ、そういうことですか」
水無瀬は無表情のまま手をポンと叩いた。
「説明は最後まで聞いて欲しい…まぁ、必要ないか。そう、君の予想した通り、頭の回る一条は死んでも殺された相手に復讐するかもしれない。常日頃から家にトラップを仕掛けてたり…一条のことだ、地雷でも埋めてあるかもしれないね。」
首領はハハ,と笑った。
「それで、その危険な橋を僕に渡らせようという訳でしょう?」
「人聞きの悪い言い方はよくない。私は君を信頼し、その上で命令しているんだ。それに、このくらいの仕事君にとっては朝飯前だろ?」
にっこり笑うと、「命令だからな、最初から拒否権はない」と言った。
それを聞いて水無瀬はハァーと深いため息をついた。そして一息置いてから立ち上がり、出口のドアへと向かう。
「よろしく頼むよ」
そう言って首領は水瀬の背中を見送った。
サスペンダーという名前が思い出せなかったので、‘’肩にかけるベルト”と検索したら出てきました。