18 ポリシー
「…何の話かな?」
「惚けるな。脆くなった心に擦り込ませ,自分が犯人なのだと思い込ませる。指示役がテロ実行犯によくやる手段だ。お前ならこの程度朝飯前だろう?」
「ふふ、なんだか褒められて嬉しいね」
「褒めてなどいない!お前は探偵だろう?!“残影”に属していようとも、その心に変わりはないはずだ!何故犯人を偽ろうとした!答えろ!」
橋本は隣室まで聞こえるんじゃないかと言う声量で叫んだ。叫びを聞いた一条は、力なさげに言った。
「…だから、私は本当にやっていないのか確かめただけなのだよ。間違った犯人を指摘するなんて、私のポリシーに反する…。あと、彼女を犯人に仕立て上げるなんて、到底不可能だよ」
部屋に備え付けてあるメモを一枚はぎ取り、万年筆を握った。そしてサラサラと文字を書き込んでゆく。
「まず、私たちが尾行していたのが9時から10時。そこから40分目くらい目を離したから、10時40分だね。そこで橋本くんから電話がかかってきた。えっと、彼女が捕まえられたのは何分前からかな?」
「…10時35分ごろ,お前に電話をかける5分前だ。死体が発見されたのは10時20分。向かいのマンションの住民からの通報で判明した。そして10分かけて俺らが到着し、ドアをこじ開けた」
「…つまり、女子高生が犯人なら、約20分の間でで夏帆さんを殺したわけだ。でも、ドアから入った形跡はない。となると窓から入るしかないのだけれど、ここは5階で、地上からは約十五メートルある。素人が上るには20分以上はかかる。その高さを登るとなると目立つし、何よりベランダの防犯カメラに映る。夜中に旅館の壁を登る不審者がいたら、向かいのマンションの人が気づくだろうしね。よって彼女が夏帆さんを殺したとは考えにくい。それに、もし私が罪を擦りつけるとしたらもっとしっかりした役者を準備するよ」
ニコニコとした笑を浮かべて言った。
橋本は考えた。犯人は誰なのか。ドアからも窓からも入らずに人を殺せる人物。そんな化け物が存在するのだろうか。
熟考したのち、一つの結論を出した。
無理である。
「無理である。って思ってるんじゃないかい?」
一条が橋本の横から顔を出した。
そして、腕を組んで仁王立ちすると、
「安心し給え!この不可解な密室事件,私が解決して見せようじゃないか!」
部屋全体に響き渡る声で、言い放った。
部屋が暑くて力が出ない〜




