16 密室
「密室、ねぇ。なかなかに興味をそそるワードじゃあないか。確かに飛び上がって喜びたいけれど、当の被害者の前でそんな姿を見せるのは不謹慎というものだね。ここは堪えて推理を進めよう。…まず、ミステリでは大きく分けて2つの密室が存在する。故意に作った密室と、偶然できた密室だ。」
一条は顔の前でピースサインを作った。
「今回の場合どちらなのかはまだ分からないけど…橋本くん、鍵はどこにあったかな?」
「…確か尻ポケットの中だ」
橋本が鍵を見せるよう命じると,鑑識は袋に入った鍵を差し出した。どこにでもあるような、なんの変哲もない鍵だった。
一条は部屋番号や材質を確認して言った。
「うん、正真正銘この部屋の鍵だね。橋本くん、一応あとで複製キーが作られていないか確認しておいてくれ。」
「もうやってある、複製などされていないぞ」
「さすがは日本警察、仕事が早いね。まぁ、鍵を使わなくても開けられる方法なんていくらでもあるけど…この旅館は防犯の為、専用の鍵以外で扉を開けた場合は警報が鳴るようになっているから,ピッキングはできない。同じ理由で扉を蹴破って入ったりハッキングして入ることも出来ない。これで彼女は部屋に閉じこもっていたことがわかったね。」
一条はその秀麗な顔に笑顔を浮かべた。
そこで水無瀬は小首をかしげ、口を挟んだ。
「一条さん、それなら何故犯人は扉を開けて行かなかったのですか?扉を開けて、鍵もポケットから取り出して適当なところに落としておけばいいのに。そうすれば元から鍵が空いていたと考えて、犯人が絞りづらくなるじゃないですか」
「その通りだ!!!それがこの謎を解く鍵となるのだろう!扉を閉めることが出来なかったのか、閉める必要が無かったのか、まず部屋に入っていないのか、それならどう殺したのか、なぜ鍵を取り出さなかったのか!いやぁ!久しぶりの探偵としての仕事に胸のときめきが止まらないよ!」
頬を紅潮させたその姿は,大好物を目の前にして目を輝かせる少女そのものであった。
あまりの声の大きさに、周りにいた警察関係者は肩をビクッと震わせた。一条もはしゃぎすぎたと反省し、ペコペコと頭を下げた。そして顔を上げ、虚空を見つめている女子高生の方を指差して言う。
「気になることはもう一つある。なぜ抵抗した跡がないのかだ。扉から堂々と入ってきたなら少なからず痕跡が残るはずだよね。なのにこの部屋の家具が動いた感じはしないし、遺体の周り以外に血痕もない、絨毯を掻きむしった跡もない。拘束されてから殺されたと考えても手首足首が変色してないから、その可能性は低い。さて、水無瀬くん。助手としての有能性を示すときだよ。彼女はどうやって死んだと考えるのが妥当かな?」
面白がっているような口調で尋ねると、水無瀬はすぐさま答えた。
「自殺ですね」
「その通り!抵抗した跡がないのなら,自分から望んでナイフを持ったと考えるべきだ。でも,明らかに怪しい人物が居るから、自殺かどうかを調べるのは後回しになっていた訳だよ。その人物っていうのが…」
一条は部屋の隅で虚空を見つめている女子高生に体を向け、指を指した。
「そう、君なんだよ」
ギャグ漫画のように面白い小説を書いてみたいものです。




