14 扉の向こうに
一条、水無瀬は店員に見送られて仕立て屋を後にし,先ほど女子高生が入って行った店に来ていた。
「ほら、早く行こうよ水無瀬君。ターゲットを探さなきゃ」
ドレスの裾を引きずりながら,ずかずかと奥へすすんでいく。後ろから気怠げについていく水無瀬は、めんどくさそうに言った。
「待ってくださいよ一条さん…多分ここなんかのパーティー会場です…部外者は立ち入り禁止だと思いますけど、そこら辺は探偵のポリシーに反してないのですか?」
ひしめく人々の間をすり抜けながら,奥へと進んでゆく。
「安心したまえ、今日の宴会は店が主催の舞踏会で、飛び入り参加大歓迎だそうだよ。主役がいないから誰がウェディングドレス着たっていいし、自由に動いていい。旅館も併設されてるから朝まで見張れる。かなりいいところだよ、ここ」
そう言われた水無瀬はあたりを見回す。
広々としたロビーにはいくつもの高級ソファーが並んでおり、天井からは巨大なシャンデリアが垂れていた。その真下では社交ダンスが行われており、色とりどりの衣装がなびき、はためいて、映画の中のような雰囲気を漂わせている。
ロビーの端の方、曇りガラスの向こうには、ウェイターたちがせかせかと歩き回るバーカウンターがあった。そこから出てきたウェイターから、一条はシャンパングラスに注がれたオレンジジュースを受け取る。
水無瀬に差し出すと、「子供扱いですね」と呟き、一息で飲み干した。
「っぷはぁ、ところでターゲットこと女子高生はどこにいるのでしょう?」ずっと探しているのに見当たりませんね」
周りを見渡すが、いちゃついてるカップルやら忙しく動き回る従業員やらで,肝心の尾行標的が見当たらない。
余裕で400人は入る広さのフロアから人ひとり見つけ出すのは,砂利の中から砂一粒見つけ出すに等しい。困難,難儀、至難の業である。
さらにこの建物は地上三階から最上階の七階までが宿泊施設になっているため,そこまで探さなくてはならない。
「無理な気がしてきました」
「同意見だよ」
二人揃ってはぁ、とため息をついた。
その時。
一条の携帯電話が鳴った。
画面にはメガネのアイコンと共に、「堅物メガネ」と表示されている。
一条は相手を確認すると、嫌な予感がする、と呟き,すぐさま応答釦を押した。
「夏帆って言う女子高生かな?どこに行けばいい」
「なんで知って…まぁいい。505号室だ」
チッと舌打ちすると、踵を返して入り口付近のエレベーターに向かった。ドアが閉まる直前で滑り込み,五階の釦を連打する。
「同じくらいの女子高生がうろちょろしてないかい?そいつを捕まえておいてくれ。話を聞くから」
足をトントン鳴らし、インジケーターを凝視しながら言った。
「…親友だという高校生ならすでにここにいる。さっきから何も話さずに虚空を見つめているがな。とても話ができる状態ではないぞ」
「それでもいいよ。とりあえず逃げないようにだけしておいて」
相手の返事を待たずに電話を切ると、ちょうどエレベーターの扉が開く。それと同時に走り出し,505室へ走った。一条は横目で部屋番号を確認しながら廊下を駆け、水無瀬はその後を追う。
「ちょっと待ってください一条さん!僕は交渉で探偵助手をする代わり生かしてもらったので、捜査には協力します。でも忘れましたか?僕らは非合法組織「残影」の一員。さっきの感じだと相手は警察だと思いますけど、流石に会うわけにはいきませんよ?痛いのは嫌なので戦闘になるのも避けたいです!」
「安心したまえ水無瀬くん。さっきのメガネ…橋本君って言うんだけど、橋本君は「残影」に借りがあるし,組織の有能性を理解している。ついでによく私に事件を投げてくるから,逮捕されたりはしないよ」
「それはよかったですね!」
2人は部屋の前で立ち止まると、ガチャリ,と重厚感のある扉を開けた。すると目の前には
ー胸に包丁を突き刺された、若い女性が。
かなり歳の離れた妹に英語の問題を出されたのですが、何言ってんのかさっぱりわかりませんでした。
ちなみに小学校で習う内容だったらしいです。




