13 青年
「…遅いですね」
「…随分とお時間が掛かっておられるようですね」
更衣室の前の椅子に腰掛け、水無瀬と呼びつけられたほうは、一条の着替えを待っていた。
水無瀬ですら数分で終わったにも関わらず、一条は一向に出てくる気配がない。すでに店に入ってから10分が経過していた。
「早くしないと女子高生どっか行っちゃうんじゃないでしょうか?」
「……女子高生?…」
店員に軽蔑の目を向けられながらも、水無瀬は無表情で、ただ待つ。
待つ。
「めんどくさいですねぇ」
そう呟きながらも,待つ。
待つ。
すると,ガチャリ,とドアノブをひねる音がした。
建て付けの悪い扉が悲鳴を上げながら,女性店員と共にー
ードレスを纏った一条が出てきた。
「は?」
「ん?」
水無瀬と呼びつけられた方は同時に声を発した。
思考が停止し,頭上に無数の?が浮かんでいる。
数秒ーいや、数十秒かもしれないが、2人はそのままフリーズして、ぴくりとも動かなかった。
「おーい?どうしたの固まっちゃって?」
一条の一言でようやく頭が回り始め,なんとなく状況を掴んでいった。
一条は紺碧の空に星が散りばめられたようなドレスを着ていた。首輪からシアー素材が鎖骨まで伸び,そこから天の川のような綺麗な布とレースで全身が覆われている。
腰には艶やかなリボンが巻かれており,その装飾としてつけられているひだ飾りは,床につくほど長い。
そして頭には銀の髪飾りをつけていた。
そこまで理解した水無瀬は叫んだ。
「女だったんですか?」
素朴な疑問だった。水無瀬の目には何処からどう見ても男性だった。が、現在の一条を見て男性と判断するのは到底不可能である。
露出した肩と背中が艶かしい曲線を描いており、軽く化粧した姿はまるで先程までとは別人のような雰囲気を纏っていた。
そして何より、普段はまな板、又は洗濯板レベルに平坦な胸が突き出している。水無瀬は何度か目をこすり、瞬きしながら2、3度見したが、見間違いではない。
「今更気づいたのかい水無瀬君?普段は邪魔だからサラシ巻いたりしてるけどね,私これでも立派なレディーだよ?…というかそんなジロジロ見ないでくれ。恥ずかしいから」
視線を背け、唇に指先を当てた。
それを見た水無瀬は、記憶を探るように、目を瞑りながら呟いた。
「え、じゃあ僕は女性の家に無断でずかずか上がり込み,落とし穴に落ちて,シャワーまで借りたってことですか?」
「そういうことだ」
「ついでに部屋を荒らして、パソコン覗き見したってことですか?」
「そういうことだ」
「…どうしようお婿に行けない……ん?待てよ?この作品,一条さんのこと‘青年’って表現してませんでした?」
眉間に皺を寄せて言った。
すると一条は不思議そうな顔をして答えた。
「青年っていうのは若い男性、又は女性を示す言葉だよ?」
それを聞いた水無瀬は部屋の隅に移動し、顔を手で覆って叫んだ。
最近ミニトマトをデザートと認識するようになりました。




