12 業務用100枚入りメガネ拭き
「あぁ、そこの仕立て屋ね。ドレスコードが必要な店の隣なんて、随分と立地がいいじゃないか、儲かるだろうねぇ」
一条は詐欺師のような怪しげな笑みを浮かべた。
「毎日十数人は正装をレンタルする方がいらっしゃいますので、懐は豊かと思われます。…羨ましい。こちとら時給500円なのに」
最後の一言で、この店の解雇条件がいかに劣悪かがよく分かる。水無瀬と一条は顔に同情の笑みを浮かべてあはは、と苦笑いした。
「ま、まあ、教えてくれてありがとう。大変だろうけど頑張ってくれたまえ、よし、行こう水無瀬くん」
「では、また後で来ます」
そう言って2人は仕立て屋へ向かった。
アンティーク調の扉を開けて店内へ。
入ってすぐのところには、ひだ飾りのついた純白のウェディングドレスをまとった蝋人形が鎮座していた。遠目から見たらただ美しい女性がドレスを着ているようにしか見えないほど精巧な作り。今にも動き出してきそうなほどである。
外からも見えるショーウィンドウには、子供用の可愛らしいワンピースと、成人式に着て行くような振袖、男性用のタキシードが展示されている。どれも購入可能らしいが、目玉が飛び出るほど値段が高い。例え大手の社長でも買うのは渋るだろう。
そんなことを考えながら店内をキョロキョロしていると、奥の方から女性店員が出てきた。
「いらっしゃいませ、お客様。正装のレンタルでしょうか?」
隣の店に入るために正装をレンタルしにくる客が多いらしく、対応も慣れっこだという。もう一人店員を呼びつけ,スピーディーに衣装選びへと移る。
衣装の壁で仕切られた店内は外観よりもずっと広く,水無瀬と一条はすぐにバラバラになった。
水無瀬は呼びつけられた方の店員に案内され、この辺りからお好きなものをお選びください、と声をかけられる。
数秒迷ったのち、手近にあったシンプルなスーツを選んだ。
こう見えてもまだ未成年,17歳の水無瀬にはスーツの良し悪しなどわからなかったのである。
「これでお願いします」
「かしこまりました、ではこちらの更衣室へお願いします」
更衣室に通され、ものの数分でスーツに着替えた。
店員によれば店に入ってから着替え終わるまでの速度が過去最速だったらしく、「サングラスにお使いください」と業務用100枚入りの眼鏡拭きをプレゼントされた。
「後書きだよ水無瀬君!元気よく行こうじゃないか!」
「え、こういうのは作者がやるものでしょう。いつもの狩瀬はどうしたのですか?」
「あぁ、それはねぇ、『最近本文が少なすぎる…どうしよう……あ、そうだ、後書きで補えばいいんだ』だそうだよ」
「…それで僕らが喋る羽目になったと」
「そういうことだよ。てことで、前話の『尾行開始』に登場した仮の保険証に書かれていた、“誕生日:6月2日”の裏話をしようじゃないか。と言うかこれしか台本貰ってないからこの話しかできない」
「台本とか生々しい事言わないでくださいよ一条さん」
「大丈夫でしょ、これ、後書きだもん」
「…僕は突っ込みませんよ」
「まぁいい!愉快に、軽快にいこう!
まずなんで水瀬君のニセ誕生日6月2日にしたかだ。理由はえっと……『その日牛乳をこぼして、なんとなく印象に残ってたから』だそうだよ。ちなみに作者は水無瀬君の誕生日考えてないらしいから,この日付は本当に物語に関係なく作者の気分だよ」
「僕の情報少ないからなんか関係あると思ってたのに…残念です…ほんとうに…」
「まぁ、気を落とすことない。まだ12話だ、これから新しい設定沢山出てくるよ。……あ、今回の話題はこれだけみたい。じゃあ終わりにしようか」
「唐突な終わり方ですね」
「では!読者の皆々様、これからも本作品を楽しんでくれたまえ!」




